ホテルのレストランで向かい合って座っても、茉莉花は頬を染めてうつむいたままだった。

「茉莉花? どうかした?」
「だって、あの。心構えが……。会えると思ってなかったから、その、恥ずかしくて」
「えっ……」

思わぬ茉莉花の言葉に、優樹までドキドキし始める。
まるでつき合い初めのカップルのようだった。

「ごめん、急に現れて驚かせたな。乾さんにも悪いことをした。二人で食べに行くところだったんだろ?」
「そうだけど。あの、違うの。ちゃんと伝えなくてごめんなさい。会いに来てくれてありがとう、優くん。とっても嬉しいです」
「茉莉花……」

優樹は右手で口元を覆ってうつむく。

「可愛すぎる。ちょっと、今は……」

そう言ってから顔を上げると、茉莉花を真っ直ぐ見つめた。

「部屋を取ってあるんだ。二人きりになったら、あとでゆっくりお祝いさせてくれ」
「えっ、お部屋まで取ってくれたの? だって、明日も平日なのに。お仕事は?」
「始発の新幹線で帰れば間に合う。大丈夫、ちゃんと調べたから」
「ふふっ、そうなのね。よかった、車じゃなくて」

無邪気に笑う茉莉花に、優樹も目を細める。

「茉莉花。嬉しかった、茉莉花の言葉が」

え?と茉莉花は首をかしげた。

「なんのこと?」
「さっき、乾さんと話してるのが聞こえたんだ」
「あ、そうだったの」

まさか聞かれていたなんてと、茉莉花は再び赤くなる。

「乾さんの言うとおりだ。茉莉花はめちゃくちゃいい女だよ。強くて明るくて、笑顔が輝いてて、可愛くて優しい。俺のたった一人の最愛の人だ」
「優くん……。私もです。沙和ちゃんに話したことは本当。いつも優くんが私の心の支えでいてくれる。優くんが私を強くしてくれるの。東京に残ると言った私を認めてくれてありがとう。おとなしくついて行くような性格じゃなくてごめんなさい」
「なにを言う。俺はそんな茉莉花だから好きなんだ。俺も負けていられないって、いつも励まされてる。俺にとっても茉莉花が心の支えだ」

二人で見つめ合って微笑む。

「誕生日おめでとう、茉莉花」

そう言って優樹はプレゼントを差し出した。
パールピンクの文字盤に埋められたダイヤモンドがキラリと光る、女性の憧れのブランドの腕時計。

「わあ、すごく綺麗!」

茉莉花はうっとりと目を輝かせた。
優樹はケースから取り出すと、茉莉花の腕にそっとはめる。

「ありがとう、優くん。これを着けてると、いつでも優くんを思い出せる」
「ああ。俺はいつも茉莉花のそばにいるよ」
「うん!」

レストランがサービスしてくれたバースデーケーキを食べたあとは、高鳴る気持ちを抑えつつ部屋に向かう。
ドアが閉まるなり、優樹は茉莉花を抱きしめて熱く口づけた。

「茉莉花……」
「ん……、優くん」

何度もキスを繰り返し、そのまま抱き上げてベッドに運ぶ。
すぐさま覆いかぶさって、またキスをした。

言葉はいらない。
心で通じるから。

愛してる、誰よりも大切だ。

そんな優樹の想いが、茉莉花を抱く腕に込められている。
温かさと力強さ、何より全身を包んでくれる優樹の深い愛に、茉莉花の瞳から涙が溢れる。

「どんなに寂しくも涙を見せないのに、俺に抱かれると茉莉花は綺麗な涙を流す」
「だって、幸せで……。どうしようもなく溢れてくるの」
「可愛い。そんな茉莉花が愛おしくてたまらない」

優樹は茉莉花の涙をキスで拭い、強く胸に抱きしめた。