「茉莉花ー、ハッピーバースデー!」

6月8日、茉莉花の27歳の誕生日。
出社すると、沙和が茉莉花にお祝いの言葉をかける。

「ありがとう、沙和ちゃん」
「今夜、一緒にご飯食べに行かない? おごるからさ」
「いいの? 嬉しい!」
「よーし、定時で上がるわよ」
「うん」

二人で気合いを入れて仕事に取りかかる。
無事にその日の業務をこなし、定時でオフィスをあとにした。

並んでエレベーターを降りると、ロビーを横切る。

「茉莉花も27歳かあ、大きくなったね」
「ふふっ、子どもみたいに言わないでよ。私、ちょっとは大人っぽくなりたいと思ってるんだから」

すると沙和は、ふと真顔になった。

「茉莉花はめちゃくちゃいい女だよ。自立したかっこいい、大人の女性」
「え? 急に何を言い出すのよ、沙和ちゃん」
「だってほんとだもん。おとなしくて内気なイメージだったのに、いつの間にこんなに素敵な女性になったの? 私の憧れだよ」
「まさか、そんな」
「あのさ、茉莉花。私だったらって考えてたの、茉莉花と白瀬部長の状況。私だったら、毎日ふとした時に泣いちゃいそう。寂しくて暗い顔して、もう無理って、仕事を投げ出して追いかけて行っちゃう。だから茉莉花のこと、大丈夫かなって心配だった。でも茉莉花は、毎日笑顔で輝いてる。強くて、明るくて、眩しいくらいにキラキラしてて。すごいね」
「沙和ちゃん……。でもそれは、優くんのおかげなの。離れてても、優くんが心の支えでいてくれるから。会えなくても電話の声で伝わってくるの、大切に想ってくれてるのが」

茉莉花……、と呟いたあと、沙和は急に声を張った。

「くーっ、可愛い! こんな茉莉花を一人にして、白瀬部長、おちおちしてらんないよー! よーし、他の男が寄ってきたら、私が追い払ってあげるからね、茉莉花」
「あはは! そんな心配いらないよ」

そう言って笑った時だった。

「茉莉花」
「えっ……」

ドキッと茉莉花の胸が跳ねる。
この声は……。
間違えるはずない。

振り返ると、優樹が優しく微笑んでいた。

「どうして……? だって、次に会うのは週末じゃ……」
「大切なフィアンセの誕生日に、会いに来ない訳ないだろう? 誕生日おめでとう、茉莉花」
「優くん……」

嬉しすぎて、信じられなくて、ただ涙が込み上げる。

「さっすが白瀬部長。そうこなくちゃ! じゃあね、茉莉花。素敵なバースデーを。お幸せにー」

沙和は笑って手を振り、タタッと去って行った。