「おはよう、茉莉花」

翌朝、ぼんやりと目を開けた茉莉花に、優樹は優しく笑いかける。

「ん、おはようございます」

なんて幸せな朝なのだろう。
二人は夕べのひとときを思い出し、照れながら微笑む。

恥ずかしさに優樹の胸元に顔を寄せた茉莉花は、ふと自分の左手に視線を落とし、ハッと目を見開いた。

「優くん! これ……」

薬指に輝いていたのは、ダイヤモンドのエンゲージリング。

「いつの間に、こんな……」

言葉を失う茉莉花に、優樹は、ふっと笑う。

「茉莉花にイエスの返事をもらえたからな。茉莉花は俺のものだって(あかし)に」

そう言って、茉莉花の左手をそっとすくった。

「ダイヤモンドの両サイドのピンク色は、桜貝なんだ」
「えっ、これが?」
「そう。由比ヶ浜で俺が拾った桜貝を、あのアクセサリーショップに持ち込んでオーダーした」
「そうなのね。なんて素敵なの」

茉莉花は左手を目の前に掲げて、ふふっと微笑む。

「世界でひとつだけの、私の宝物。ありがとう、優くん」

優樹の首に腕を回してギュッと抱きつくと、優樹は慌てたように身を固くした。

「茉莉花、その……。ちょっとマズイ」
「え? なにが?」

身体を離すと二人の素肌が視界に入り、茉莉花は真っ赤になった。
急いでシーツを手繰り寄せる。

「ごめんなさい!」
「いや、いいんだけど。これから会社だから、今は、ちょっと」
「はい。すぐに着替えますね」
「そうだな、また今度にしよう。今夜にでも」

優樹は自分に言い聞かせるように、真顔で頷いた。