「では改めて。メリークリスマス」

スイートルームのリビングでソファに並んで座り、ホールのクリスマスケーキを前に二人で乾杯し直す。
シェフが用意してくれたケーキは真っ白な雪化粧のように美しく、切り分けるとダークチェリーソースを挟んだショコラ生地になっていた。

「とっても美味しいです」
「ああ。料理も美味しかったしな」
「ええ。こうやってお部屋でゆっくりケーキを食べられるのも嬉しい」
「そうだな」

誰にも邪魔されない、二人だけの時間。
茉莉花はワインよりもそのことに酔いしれていた。

「優くん、ささやかだけど私からのクリスマスプレゼントです」

そう言って、ラッピングされた箱を差し出す。

「ありがとう。開けてもいいか?」
「もちろん」

茉莉花が贈ったのは、イタリア製のシルクのネクタイとネクタイピン。
ダークネイビーにシルバーのラインが斜めに入った、大人っぽいネクタイだった。

「いい色だな。手触りも良くて気に入った。ありがとう、茉莉花。大切に使うよ」
「はい」

笑顔の茉莉花に、優樹は少しもったいぶって口を開く。

「じゃあ、俺からも茉莉花に。ちょっと目をつぶってて」
「ええ? どうして?」
「いいから、ほら」

茉莉花はしぶしぶ目をつむる。

「もう開けてもいい?」
「早すぎるだろ! 俺がいいって言うまでダメ」
「えー、いなくならないでね。……って、え? 優くん? ほんとにどこかに行っちゃった?」

静けさに不安になった時、ようやく優樹の声がした。

「もういいよ」

ゆっくりと目を開けた茉莉花は、思わず息を呑んだ。
目の前に差し出されていたのは、抱えきれないほどの真っ白なバラの花束。

「……なんて綺麗なの」
「茉莉花に99本の白いバラを贈る。『永遠の愛』という意味があるんだ。俺は茉莉花を永遠に愛すると誓うよ。だから茉莉花、俺と結婚してほしい」

茉莉花は目を見開いて言葉を失う。
その瞳から涙が溢れた。

「茉莉花?」

茉莉花の涙に、優樹は不安げに顔を覗き込む。

「ひょっとして、俺との結婚は考えられない?」
「違います、そうじゃなくて……」

首を振って言葉を詰まらせる茉莉花を、優樹はそっと抱き寄せた。

「どうした? 茉莉花」
「私、申し訳なくて……。こんな私が、あなたと結婚する資格なんてないです」

優樹は少し驚いてから、優しく茉莉花の言葉を聞く。

「どうしてそんなことを思う?」
「だって、私……。私のわがままであなたに我慢させて。それなのにあなたは、いつも私に寄り添ってくれて、結婚まで考えてくれるなんて。私はあなたに、何もしてあげられなかったのに。それどころか、あなたに……」

優樹は、ふっと笑みをもらした。

「茉莉花のわがままなんかじゃない。でも気にしてくれてたなんて、俺こそ茉莉花に謝らなきゃな」

え?と茉莉花は顔を上げた。

「どうして? あなたが謝ることなんて、何も……」
「平気なフリをしてたけど、バレてたか。大人の余裕を見せてたつもりだったんだけどな。あまりに茉莉花が魅力的で、理性を保つのにいつもギリギリだった」
「そんな、ごめんなさい」
「謝らなくていい。茉莉花のせいなんかじゃないんだから。それに俺は、ただ茉莉花と一緒にいられるだけで幸せなんだ。茉莉花と結婚したいと心から思っている。茉莉花は?」

茉莉花は涙をポロポロこぼしながら、声を震わせる。

「私もあなたと結婚したいです。あなたのことが、大好きだから」

優樹は頬を緩めて頷いた。

「結婚しよう、茉莉花」
「はい」

茉莉花の瞳からこぼれ落ちた涙を指先で拭うと、優樹は愛を込めて茉莉花にキスをする。

二人で抱きしめ合い、その温もりを互いの胸に閉じ込めた。

幸せに心がしびれて、たまらず茉莉花は顔を上げる。

「どうしよう、涙が止まらないの。嬉しくて、幸せ過ぎて……」

優樹は微笑んで、茉莉花の頭を胸に抱き寄せた。

「嬉し涙なら、いくら流してもいい。けど茉莉花、他のやつにはそんな可愛い顔を見せるなよ? 泣いていいのは、俺の腕の中でだけだ」
「うん……」

髪を優しくなでながら、優樹は愛おしそうに茉莉花の頬に口づけた。