この世界からきみが消えても


「バイト先と西垣くんの家ってどれくらいの距離?」

「歩いて10分くらいかな」

「バイト先から莉久の発見された現場までは?」

「えーっと、どうだろ……。20分とかそれくらいじゃない?」

 無意識にかかとを浮かせながら、立て続けに質問を投げかける。

「じゃあ、USBメモリを取ってお店を出るまでの時間は?」

「んー、普通は5分もかからないと思うけど。店の中は停電でバタバタしてたし暗くて探すの手間取ったから、そのときはもっと長くなったと思う。……え、てか何これ? 取り調べ?」

 西垣くんが茶化すように笑った。
 最初の時点でわたしが全面的に疑いを向けたり非難したりしなかったことで、精神的に余裕が出てきたのだろう。

 一方のわたしには、それに乗るゆとりなんてなかった。

「わたしは本当のことを知りたいだけだよ」

「……うん、ごめん。俺ももう嘘つかないから」

 一瞬肩をすくめ、それから気を引き締めるように背筋を伸ばした。
 確かに、ここまで来ていまさら誤魔化すようなこともないはず。

 ヴィジョンから読み取った情報と(あわ)せ、妥当性の高い推測を構築していく────。

 犯行推定時刻は18時半から19時半の間という話だった。
 西垣くんがバイトを上がって最初にお店を出たのは18時12分。
 残像の中で見えたから間違いない。

 それから現場へ向かったのだとしたら、確かに時間に矛盾はない。
 けれど、先ほど見た記憶からしても彼自身の発言からしても、忘れものを取りにいったという話は事実。

「忘れものを取りにいってたってこと、警察には言わなかったの?」

「もちろん言ったよ! 言ったけど、信じてもらえなかったんだよ」

 勢いよく反駁(はんばく)したものの、だんだん萎んでいってうつむいた。
 防犯カメラとかは、と言いかけてはたとひらめく。

(……停電)

 不運にもちょうどそのタイミングと重なってしまったせいで、裏が取れないんだ。

 その場にはほかの従業員もいたけれど、復旧作業に追われていた様子だった。
 暗くてよく見えない中、交わした言葉が挨拶だけなら、記憶に残らなかったのも頷ける。
 だから、第三者の証言も期待できない。

 一度、嘘の証言をしていた手前、はじめから疑ってかかられるのは仕方がないと言えた。
 色々な理由が重なって立証できないでいるのだろう。

 つまり、客観的な事実として彼を守ってくれるアリバイがない。
 だけど、()()以上わたしには信じられる。