この世界からきみが消えても


「西垣くんが持ってるもの出して。その鞄の中身も」

 空いた椅子に乗せられていた通学用のリュックを指す。

 彼自身に触れる前に、持ちものからサイコメトリングしておきたい。
 それで事実を掴めれば、わざわざ忘却(ぼうきゃく)という代償を負うまでもない。

「……いいよ、見られて困るもんなんてないし。凶器でも出てくれば(おん)の字だろうけどさ」

 彼はそう言って、おざなりにリュックを卓上に置いた。

「ありがと。でも、そんなこと思ってないって」

 あからさまに意地悪な言葉を受けて肩をすくめるも、西垣くんは信じていないようだった。

 実際、そういう意味で持ちものを調べたいわけではないのだけれど、彼の置かれた状況を(かんが)みれば、そうとしか受け取れないだろう。

 ファスナーを開けると、中身をテーブルの上に並べていく。
 教材、ペンケース、財布、鍵など、さして特異なものも怪しいものもない。
 それから思い出したように「あ、これも」とスマホが置かれた。

「ね、ほら。これで安心?」

 そんな声を耳に、スマホを手に取ってみる。

 あの日の記憶が眠っているのなら、わたしに見せて欲しい。

 そう期待を込めると、果たして指先が痺れた。
 頭の中に映像が流れ込んでくる。

 ────手元のスマホのロック画面表示。
 日付は事件当日、時刻は“18:12”となっている。

 蛍光灯が灯る一室で、数人が談笑していた。
 そんな中、テーブルに広げていたパソコンを閉じた西垣くんが立ち上がる。
 彼は室内にいた面々に声をかけてからドアを開けた。

 どうやら、いまのはスタッフルームだったみたいだ。
 恐らく彼のバイト先である古着屋だろう。

 そこで、ふっと意識が現実へ引き戻される。

「……何してんの?」

 怪訝そうな眼差しを注がれていることに気づいたものの、見て見ぬふりをした。
 あれこれ説明する前に、続いて鍵に触れてみる。

 ────アパートと思しき玄関先。
 ドアを開けた西垣くんがシューズボックスの上に鍵を置いた。
 その傍らにあるデジタル時計は“18:23”を示している。

 彼の家だ、と思い至ると同時に一瞬ノイズが走り、西垣くんが再び玄関に現れる。
 靴を引っかけて鍵を掴むと、慌ただしく家を出ていった。
 時刻は“18:47”となっている。

 そこでヴィジョンが途切れ、わたしは小さく息をついた。

(……いまのって、さっきの続き?)

 あの事件の日、バイトから帰宅した西垣くんの一連の行動を垣間見たことになる。
 鍵を戻すと彼に向き直った。