この世界からきみが消えても


 本来なら、犯人が特定されて逮捕間近だなんてこの上なく喜ばしい状況だ。
 最初からその結果を目指してきたはずで、願ってもみない展開。

 だけど、色々な意味で釈然(しゃくぜん)としない。
 そのせいで途中から感情が置き去りになっていた。

 まさか西垣くんが莉久を殺そうとするなんて────とか、そんな衝撃にも至らないのは、そもそもその結論が腑に落ちないからだ。

 彼こそが真犯人だったんじゃないか、というのはわたし自身が考えた可能性でもある。
 だけど、正木さんの話と(あわ)せると確信が(とぼ)しくなった。
 染みを、違和感を無視できない。

 眉根に力を込めたとき、通話を終えた正木さんが戻ってきた。
 ため息混じりに再び椅子に座る。

「……先ほど、西垣を一旦帰したそうです。ただ、容疑については終始否認していたとか。偽証の理由も“疑われたくなかったから”だそうで」

 疑われたくなかったから、たとえば“その日はずっと家にいた”だとか適当に嘘をついたのかもしれない。
 けれど、目撃証言が上がったことで破綻(はたん)した。
 その結果、墓穴(ぼけつ)を掘ってかえって疑惑を深めてしまったのではないだろうか。

 確かに怪しいところが少なくないと思う。
 だけど、そもそも通報者は西垣くん本人だった。

 結果的にとはいえ、言わば莉久の命の恩人。
 疑われたくないがために偽証までしたのに、彼が犯人だとしたら通報なんてするだろうか。

 それに、元より顔見知りである以上、莉久との繋がりも明白だ。
 それなら、わざわざ免許証を回収させる意味もないような気がする。

 先ほど正木さんが言っていたことも、不自然と言わざるを得ない。
 もともと藤井さんと共犯関係にあったのなら、事件後から接触を試みるなんて妙だ。

 ────抱いた違和感を裏づけるような反証(はんしょう)が、あとからあとから湧いてくる。
 やっぱり納得できない。
 西垣くんはきっと、犯人じゃない。

「厄介ですが、ここまで来たら今度は任意じゃなく引っ張ることになるかも……」

「あの、すみません! わたし、失礼します」

 トレーを持って慌てて立ち上がる。
 戸惑ったような正木さんの声にも振り返ることなく学食を出た。

 西垣くんは犯人じゃない。
 そう思っても、いまはまだ憶測や直感といった不確かないち意見でしかない。
 警察全体の見解が正木さんの言葉通りなら、その一員である彼に伝えても意味がないだろう。

 少なくとも、現状の流れを覆すには事実である前提が必要だ。
 つまり、西垣くんが犯人ではないという確証が。