イジワル幼なじみが「友達だからいいでしょ?」っていいながら、めちゃくちゃ溺愛してくるんですけど!?

「百里」
「ついてこないでってば」
「いや、俺んちこっちだしね」
「それは知ってるの。離れて歩いてってこと。前までみたいに」
 〝友達宣言〟前の状態まで、下がれってこと。
 わかるでしょ?
 なのに、式見は全然距離を取ってくれない。
 正直、今日の休み時間に日葵と話してから「確かになあ」って思ったんだ。
 私、式見とのパーソナルスペース縮まって来てるかも知れない。
 パーソナルスペースってのは、他人との空間のなかで、不快に感じるまでの距離のこと。
 式見とのそれがだんだん縮まってきているってことは、私自身が式見に対して、あまり不快感を感じなくなってきているってことなんじゃないかな。
 それって、ゆゆしき事態だよね。
 だって、私は式見のこと、あまりよくなく思っていたはずだもん。
「百里。今度の日曜日、動物園行かない?」
「行かない」
「友達なんだから、行かないと」
「本当の友達だったら、そんなに強制してこないんじゃない」
「いや、友達の誘いは断ったらダメでしょ」
 何、その持論!
「友達だったら、友達の予定を優先してよ」
「何なの。既に誰かと予定があるってこと」
「いや、その」
「どっちなの。あるの、ないの。ハッキリ言ってくれない」
 やばい。そんな予定ないことがバレたらまたからかわれそう。
 〝嘘つくとかありえないでしょ〟とか〝罰として今後一週間は語尾に『ござる』をつけなよ〟とか〝今すぐツインテールに猫耳つけろ〟とかわけわかんない要求までしてきそう。
 うまくごまかすしかない。
「あ、あるよ」
「ふうん。家族と買い物でも行くの?」
 いや、その日お父さんはたまの日曜出勤の日だし、お母さんも子供会の役員の仕事で忙しい日だ。
 ずばり、特に用事はないんだけど。
 どう言い訳しよう——そ、そうだ!
「柳原くんとちょっと用事があって」
「……は? また柳原?」
「そう。ちゃんとした用事はあんの。そういうわけだから。じゃあね!」
 言い残し、逃げるようにその場を立ち去った。
 バレてないよね。うまい言い訳できたはず。
 柳原くんとメイク道具を見に行くってのは、かなり説得力がある言い訳だったよ。
 前回、柳原くんにメイクを教えてもらったからその延長で、買い物に付き合ってもらうことになったっていう、ストーリー感があるよね。わかんないけど。
 あれ。柳原くんとはメイク道具を見に行くってこと、ちゃんと式見に伝えたっけ。
 うーん。まあ別にいっか。
 とにかくまた式見と出かけることにならなくてよかった。
 もう、からかわれるのはこりごりだもん。