イジワル幼なじみが「友達だからいいでしょ?」っていいながら、めちゃくちゃ溺愛してくるんですけど!?

 意味が分からなかった。
 何だか、式見のことを思うと胸がもやもやするんだ。
 なんで私があいつのせいで、あいつのことを考えなくちゃいけないのかと思うと、しゃくで。
 でも、気をぬくと頭が勝手に式見のことを考え出す。
 これって、式見にドッキリを仕掛けられているせいなんだよね。
「はあ……」
 教室の窓際、列の一番後ろが私の席。
 クラスメイトたちは休み時間、廊下でだべる、寝る、ふざけあう、などおのおの楽しんでいる。
 ただひとり、私だけがもやもやしてる。
 何だか、孤独な気分。
「もも、どしたの」
「日葵」
 私の前の席に座ると、日葵は頬杖をつき、ニヤッと笑った。
「恋でしょ。恋の悩みでしょ、そのため息は」
「違うよ。恋じゃないから」
「うっそ。そうなの。恋をするからため息が出るんだと思ってた」
「それは恋愛マンガの見過ぎ。てか、日葵。今、恋してんの?」
「うん」
「うそうそ、誰っ?」
 初耳過ぎ。日葵は小学五年の時に付き合ってた子が転校しちゃって。
 当然、小学生だから遠距離恋愛なんてできるわけもなく、そのまま自然消滅ってかんじだったんだよね。
 それ以来、恋は出来てない感じだったけど。
 好きな人、出来たんだ。
「知りたい?」
「も、もちろん!」
「あのね」
 こそっと耳打ちしてくれる、日葵。私はそれを聞き逃すまいと、周囲のざわめきをシャットダウンする。
 そして、聞こえてきた名前が意外過ぎて思わず「ええっ」と声を上げてしまう。
 日葵があわてて、人差し指で「しーっ」と言った。
「もも、声でかい」
「ご、ごめん。ええ、そうだったんだ。日葵ってば」
 照れくさそうに笑う日葵。
 私は、今聞いた名前を教室内で探す。
 いた。廊下の窓際で、式見と笑いあってる。
 柳原筒路くん。彼が、日葵が片思いする相手。
「わあー! なんか、わくわくしてきたっ」
「なんでももがわくわくするんだってば」
 笑いながら言う日葵に、「へへ」と返す。
 だって、もし日葵と柳原くんが付き合ったら、嬉しいって思うんだもん。
 友達の日葵と、そして式見の友達の柳原くん。この間、メイクでお世話になったことだし、何だかもう他人事じゃないって言うか。
 まだまだ先の話だけど、友人や身内の結婚式に出るときと似てるんじゃないかな。どきどき、わくわく、きゅんって感じ。
 日葵の恋が実るといいな。そうなったら私、全力で祝っちゃう。お小遣いはたいて、まんまるのホールケーキをプレゼントしちゃうかもね。
 それぐらいのテンションよ。
 あーあ。恋っていいなあ。
 私が式見に抱いてる、いらいら、もやもや、もんもんって感情とは大違い。
 式見の姿を視界に入れただけで、心臓がギクッてはねる。雷にうたれたみたいに。
 恋だったら、こんなふうにならないんだろうな。
 私も恋をして、幸せな感情に浸りたいよ。
「はあ」
「またため息ついて」
「恋じゃないからね」
「はいはい。それはいいけど、最近さ。ももってば、式見くんといっしょに帰ってるの?」
「いや、それは通学路がいっしょだから」
「でも前までだったら、式見くんよりも、もものほうが早く歩いて行ってたじゃん。追いつかれてからかわれると面倒だからって言って」
 それは確かにそうだ。
 でも、状況は変わったのよ。
 なぜか式見に「友達宣言」をされた日から。
 そう言われるとどうにも避けづらい。
 しかも、以前よりも式見がしつこく付きまとってくるから諦めていると言うのもあるかもしてないけど。
 でも、これを日葵に言うのはちょっとめんどくさい。
 ぜったい「それって付き合ってるみたいなもんだよね」とか言ってきそう。
 日葵は恋愛脳だから。
 式見はそういうんじゃないのよ。頭がおかしいだけなの。
「まあ、前よりは話すようにはなったかな。ほらウチらももう中学生だし。大人じゃん?」
「なるほどね。小学生の時よりも成長したってことね」
「あ……ウン」
 成長か。成長、してるのかな。小学生の時よりも。
 してるといいけど。
 だとすると、具体的にどこが成長しただろう。
 考え方、行動の仕方、心の広さ、視界の広さ。
 どれも、まだピンとこない。
「でも最近、もも……変わったよね」
「ど、どこが?」
「式見くんに優しくなった」
「ど、どこがッ!」
「ちゃんと、式見くんの言葉にまともに返すようになったよ。ほら、式見くんって、独特じゃん。雰囲気が。賢いんだけど、めちゃくちゃって感じで」
 まあ、式見ってAB型だからな。変わってるのかもね。血液型を信じてるわけじゃないけど、式見にだけは当てはまってるような気もする。
 天才型の変わりものだ、って陰でよく言われているのを聞いたことがあるもん。ちなみに、たしか五月三十日生まれのふたご座だったっけ。
「ねえ、ももってさ。誰かと付き合ったら、何したい?」
「わかんないよ。誰かと付き合ったことなんかないしさ」
「イメージで答えみてよ。参考にしたいから」
「柳原くんと付き合ったとしたら、の参考?」
「そうそう!」
 目をきらきらさせながら言う日葵。恋する女の子って感じだ。
 私の目から見ても可愛いから、柳原が見たら絶対可愛いって思うよ。
 早く告白しちゃえばいいのに。円満に成就すること間違いなし。
「うーん。おいしいアップルパイを食べに行きたいかなあ」
「好きだなあ、ももは。アップルパイが」
 小さい頃に、お母さんがよく作ってくれたアップルパイ。
 それがきっかけで、私はアップルパイが一番の好物なのだ。
 カフェとかでメニューにアップルパイがあれば、迷いなく選ぶくらい。
 まあ、どれだけおいしいアップルパイだとしても、お母さんのアップルパイが一番おいしいって思ってるよ。
「じゃあ、日葵は? 柳原くんと付き合えたら何がしたい? 現段階で思ってること、聞かせてよ」
「えっとね、私は……で、デート……」
「デートね。どこに行きたいの?」
「……どこでもいいんだ。柳原くんとなら。そのへんの花壇とかでもいい。おしゃべりできたら、それで満足なんだよね」
 日葵の顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。
「し、しまったなあ。つい本音が。あはは……」
 照れ笑いしている日葵はもう、アップルパイのリンゴよりも真っ赤っかで。
 見ているこっちまで照れてくる。
 これが、恋なのかあ。すっごく幸せで、めっちゃきらきらしてる。
 私も恋、早くしてみたくなってきた。
 まあ、相手がいないんだけどさ。