まだ夕方だけど、そうそうに帰宅。
何だかドッと疲れたかもしれない。
ソファに体を沈み込ませると、服屋のショッパーバッグを肩に下げた式見がニヤニヤとしながらリビングに入ってきた。
「はい。着替えて」
「い、今?」
「そう。俺のセンスをためしたいから」
「なんで私でっ?」
「百里に似合うと思って買ったんだから、すぐに見たいに決まってるじゃん」
――ドキッ。心臓がはねた。
なにそれ。今日は色々とわけがわからない。
仕方なく私はショッパーバッグを手に、自分の部屋に引っこんだ。
そして、式見の買った服に袖をとおす。
見ると、やっぱり他にも色々買っていた。
「全部、着てきてね。全部、確かめたいから」
一階からお声がかかる。
「んもう。何なの、あいつは」
こんなの、恋人ごっこじゃないじゃん。
練習相手に、ふつうここまでするか?
私は式見が買った服を着て、買ったものを全部持って、一階に降りた。
リビングに入ると、式見を私を見て、優しくほほ笑む。
「いいじゃん。やっぱり思った通りに」
「なんで、そんなふうに言うの」
「なにが?」
「買いすぎでしょ。ニセモノの彼女なのに」
「そうかなあ」
一目見て気に入った、グリーンのワンピース。
そして、ライトブルーのミニショルダーバッグにホワイトのストラップシューズ。
「玄関で、シューズもはいてみてよ」
「……んん」
不満そうにしながらも、玄関に向かう。
「はい。はいたよ」
「ふうん」
ストラップシューズなんて、はくの初めて。
私がこんなに可愛い靴をはく日がくるなんてね。
まあ、はかせた本人は興味なさそうだけど。
「いいね」
「本当にそう思ってんの? 〝やっぱり似合わない〟なんて思ってるんでしょ。言っとくけど、勝手に買ったのはあんたなんだからね」
「はいはい。似合ってる、似合って」
きいいっ。むかつくっ。どうせ似合わないもん。
シンプルだけど、形が可愛いから、やっぱり私には荷が重かったみたい。
「もう着替えよ」
「えっ。なんで」
「だって、恥ずかしいし。こんな服着たことないし」
「可愛いって言ってるじゃん」
「そんなこと思ってないくせに」
「うーん。どうしたら信じてもらえるのかねえ」
何言ってんだか。
そんな、へらへら笑いながらで、私の信用を得られると思ってんの?
「じゃあ、今日は百里の恋人役だから。百里の好きなところ十個答えられるまで帰れまテンするか」
「はっ?」
「一個目。おもしろいところ」
なに。なにが始まったの。
式見に私の好きなところ言われてるの?
今日は変なことばっかり起きる。
いったい、どうなってるのっ?
「すでに顔が赤いんだけど。百里ってば、十個たえられるの?」
思わず、耳をふさごうとするけど式見に両手をつかまれ、阻止されてしまった。
「はなしてよ」
「なんで?」
「聞きたくない」
「うーん。やだ」
ニコッと笑うと、次々に〝私の好きなところ〟とやらを言っていく式見。
「二個目。読書好きなところ。三個目。映画好きなところ」
「わかった。信じるから。さっきのこと、信じるからもうそんなん止めてよ」
「えー。なんで。嬉しくないの?」
「そういう問題じゃない」
ドキドキ、ドキドキ、心臓がうるさいから。
そのせいで汗もヤバイし、顔も熱い。
それに、本当に式見のことを好きになりそうだから。
錯覚だって、わかってるのに。
これって、あれだよね。
吊り橋効果ってやつでしょ。本で読んだことある。
いや、ちょっと違うのかな。ああ、もう何も考えられないよ。
「じゃあさ」
「なに」
「俺のこと好きになりそうだから、止めてほしいの?」
「な……!」
式見に掴まれたままの両手に力を込めた。
ぐいっと引っ張ると、式見の手が離れる。
そのまま玄関のドアを開けると、ドンッと式見の背中を押した。
「じゃあね。ばいばい。もう帰って」
「何だよ。いきなり」
「……な、何でもない。遅いし、帰った方がいいし」
「変だよ」
「変じゃない」
「その反応、肯定してるようにしか見えないよ。本当に俺のこと、好きになりそうなんでしょ」
――バタン!
ドアを閉めた。
瞬間、重い息が口からこぼれた。
そんなはずない。そんなはずないのに、図星を指されたと思ってしまった。
〝私が、式見のことを好きっ〟?
ありえない。ありえない。ありえない。
「ああ、もう。明日どんな顔して会えばいいの。式見のバカ!」
こんなことになるなら、恋人ごっこなんてしなきゃよかったよ。
式見はからかってるだけなのに、私だけが本気みたい。
もうなんだか、疲れたな。
何だかドッと疲れたかもしれない。
ソファに体を沈み込ませると、服屋のショッパーバッグを肩に下げた式見がニヤニヤとしながらリビングに入ってきた。
「はい。着替えて」
「い、今?」
「そう。俺のセンスをためしたいから」
「なんで私でっ?」
「百里に似合うと思って買ったんだから、すぐに見たいに決まってるじゃん」
――ドキッ。心臓がはねた。
なにそれ。今日は色々とわけがわからない。
仕方なく私はショッパーバッグを手に、自分の部屋に引っこんだ。
そして、式見の買った服に袖をとおす。
見ると、やっぱり他にも色々買っていた。
「全部、着てきてね。全部、確かめたいから」
一階からお声がかかる。
「んもう。何なの、あいつは」
こんなの、恋人ごっこじゃないじゃん。
練習相手に、ふつうここまでするか?
私は式見が買った服を着て、買ったものを全部持って、一階に降りた。
リビングに入ると、式見を私を見て、優しくほほ笑む。
「いいじゃん。やっぱり思った通りに」
「なんで、そんなふうに言うの」
「なにが?」
「買いすぎでしょ。ニセモノの彼女なのに」
「そうかなあ」
一目見て気に入った、グリーンのワンピース。
そして、ライトブルーのミニショルダーバッグにホワイトのストラップシューズ。
「玄関で、シューズもはいてみてよ」
「……んん」
不満そうにしながらも、玄関に向かう。
「はい。はいたよ」
「ふうん」
ストラップシューズなんて、はくの初めて。
私がこんなに可愛い靴をはく日がくるなんてね。
まあ、はかせた本人は興味なさそうだけど。
「いいね」
「本当にそう思ってんの? 〝やっぱり似合わない〟なんて思ってるんでしょ。言っとくけど、勝手に買ったのはあんたなんだからね」
「はいはい。似合ってる、似合って」
きいいっ。むかつくっ。どうせ似合わないもん。
シンプルだけど、形が可愛いから、やっぱり私には荷が重かったみたい。
「もう着替えよ」
「えっ。なんで」
「だって、恥ずかしいし。こんな服着たことないし」
「可愛いって言ってるじゃん」
「そんなこと思ってないくせに」
「うーん。どうしたら信じてもらえるのかねえ」
何言ってんだか。
そんな、へらへら笑いながらで、私の信用を得られると思ってんの?
「じゃあ、今日は百里の恋人役だから。百里の好きなところ十個答えられるまで帰れまテンするか」
「はっ?」
「一個目。おもしろいところ」
なに。なにが始まったの。
式見に私の好きなところ言われてるの?
今日は変なことばっかり起きる。
いったい、どうなってるのっ?
「すでに顔が赤いんだけど。百里ってば、十個たえられるの?」
思わず、耳をふさごうとするけど式見に両手をつかまれ、阻止されてしまった。
「はなしてよ」
「なんで?」
「聞きたくない」
「うーん。やだ」
ニコッと笑うと、次々に〝私の好きなところ〟とやらを言っていく式見。
「二個目。読書好きなところ。三個目。映画好きなところ」
「わかった。信じるから。さっきのこと、信じるからもうそんなん止めてよ」
「えー。なんで。嬉しくないの?」
「そういう問題じゃない」
ドキドキ、ドキドキ、心臓がうるさいから。
そのせいで汗もヤバイし、顔も熱い。
それに、本当に式見のことを好きになりそうだから。
錯覚だって、わかってるのに。
これって、あれだよね。
吊り橋効果ってやつでしょ。本で読んだことある。
いや、ちょっと違うのかな。ああ、もう何も考えられないよ。
「じゃあさ」
「なに」
「俺のこと好きになりそうだから、止めてほしいの?」
「な……!」
式見に掴まれたままの両手に力を込めた。
ぐいっと引っ張ると、式見の手が離れる。
そのまま玄関のドアを開けると、ドンッと式見の背中を押した。
「じゃあね。ばいばい。もう帰って」
「何だよ。いきなり」
「……な、何でもない。遅いし、帰った方がいいし」
「変だよ」
「変じゃない」
「その反応、肯定してるようにしか見えないよ。本当に俺のこと、好きになりそうなんでしょ」
――バタン!
ドアを閉めた。
瞬間、重い息が口からこぼれた。
そんなはずない。そんなはずないのに、図星を指されたと思ってしまった。
〝私が、式見のことを好きっ〟?
ありえない。ありえない。ありえない。
「ああ、もう。明日どんな顔して会えばいいの。式見のバカ!」
こんなことになるなら、恋人ごっこなんてしなきゃよかったよ。
式見はからかってるだけなのに、私だけが本気みたい。
もうなんだか、疲れたな。



