イジワル幼なじみが「友達だからいいでしょ?」っていいながら、めちゃくちゃ溺愛してくるんですけど!?

 私は今、誰かに恋をしている……?
 式見に言われて、初めて気づいた。
 だから〝恋をしてないです〟って、ハッキリ言えなかったんだ。
 私、嘘が苦手だしな。
「本能的に嘘を吐くのを避けたってことか。すごいな、私」
「すごいのかは知らないけど、そういうことになるのかな」
 あきれたように笑う、式見。
「百里が誰に恋をしているのか知らないけどさ。百里の映画批評をちゃんと聞いてくれる人だといいよね」
「う……っ」
 パスタのスープがぬるくなるまで話しちゃったもんね。
 よくないとは思ってるけど。
 でも、止まらないんだよお~!
「まあ、その誰かがわかるまでは、仕方ないから俺が聞いてあげるよ。百里の恋愛の練習相手だからさ」
「す、すみません……」
 なんだかんだで、式見っていいやつだったりするのかな。
 そんなことを最近思い始めてる自分が怖い。
 最近まで、避けてた相手のはずなのにね。
 なんて思いながら、私は冷めきってしまったパスタをすすった。
 ようやく食べ終え、少し休んでから、店を出た。
「それじゃあ、行こうか。服屋」
 式見が手を差し出して来たので、おずおずとつなぐ。
 これ、クラスメイトに見られませんように。
 最寄りから二駅離れてるから、大丈夫だと思いたい。
「服を選ぶなんて言われても、私たぶん適当なのしか選ばないよ。何がいいのかなんてわからないし……」
「いや、何言ってんの?」
「はい?」
「今から、俺が百里の服を選ぶんだよ」
 ええっ。式見が選ぶの?
「行こう。あそこだよ」
 式見が指をさしたのは、明らかに高そうな服屋さん。
「知ってる店なの? 式見」
「知らない。てきとうに入るだけ。店頭のマネキンの服が百里に似合いそうだから」
 そんな理由で入っちゃうのっ? すご、大人じゃん。
 店頭のマネキンの着てる服。確かにシンプルだけど、こんな服着たことない。
 これを私に似合いそうって思ってくれたんだ。なんか、照れるなあ。
 式見はささっと店内を見ると、すぐに外に出てきてしまった。
「ちょっと違ったね」
「そうなの?」
「うん。ベージュばっかり」
「ベージュって?」
「無難な色ってこと。もうちょっと寒色系があるとよかったよね」
 そういえばこの店の服、寒色系は少なかった。ベージュとか、ホワイトとか、そういうのが多かったな。すごい。めっちゃ観察してる。
 服を選ぶ店ってこういうふうに選んでいくんだ。
「なんか勉強になるなあ」
「そう? 百里もすぐにわかるようになるよ。俺が教えてあげる」
「そりゃどうも」
「柳原は百里に服のこと教えるとき、なんて言ってたの」
「レンタル服のこととか、あとレイヤードコーデのことを教えてもらったかな」
「ふうん。レイヤードコーデね」
 興味なさそうだなあ。
 じゃあ、聞くなよってかんじなんですけど。
「あっ。この店に入ろうか」
 英語で【Permanent Flower】って書いてある。
 店内は、アットホームで明るい雰囲気。
 さっきの店は大人っぽくて私は躊躇しちゃう感じだったけど、今度の店は入りやすくて、個人的にはいい感じ。
「百里。こういうの好きでしょ」
「さあ、着たことないからわかんないよ」
「着てみたら好きになるよ、ぜったい」
 なんなの。こいつのよくわからない自信は。
 式見はそう言って、何着かをみつくろっていく。
 それを私に合わせて色を観たり、組み合わせを見ているみたい。
「百里は色白だから、ハッキリした色の服が似合うんだよ」
「そうなの?」
「うん。グリーン系とかいいかもね」
「あっ、そのワンピース……」
 式見が持っているのを思わず指さす。
 それはきれいなグリーンのシャツワンピース。しかも切り替えになっていて、スカート部分は可愛いチェック柄。
 腰はリボンでキュッとしぼれるようになっている。
 かわいい。こんな服を着こなせたら、家ばっかりじゃなくて公園でひなたぼっこしながら読書したい気分になれちゃうよね。
  映画館に行く気持ちもはずんじゃう。
  でも値段は……【一万円】!?!?!?
「たっか……」
「こんなもんでしょ」
「中学生のお小遣いにはきついよ」
「俺は買えるよ」
「はいっ?」
「買ってあげるよ」
「な、何たくらんでるっ?」
「百里。先月、誕生日だったでしょ」
 私の誕生日は四月二十六日。もうとっくに過ぎている。
「それがなんなの」
「渡してなかったから」
「いや、今までくれたことなかったじゃん。というか、よく覚えてるね」
「百里だって俺の誕生日知ってるでしょ」
「それはまあ、女子はそれだけど男子はさ」
 私は占いが好きだから、他人の誕生日や血液型を無意識に覚えてしまうのだ。
 だから、式見の誕生日や血液型を覚えていただけであって深い意味はない。
「俺が覚えていたのは記憶力がいいからだし」
「なるほどね……」
「誕生日のプレゼントは彼氏の務めだしね」
「練習相手なだけなのに、こんな高い買い物するの?」
「いらないの?」
 いや、それを聞いたら〝いる〟に決まってるんだけど。
「悪いよ。ごっこ遊びにこんな大金を」
「俺は遊びにはいつも本気だけど」
 よくわからない情熱を披露してくるなあ。
「別に大した出費じゃないよ。俺、今までのお年玉一円も使ってないし」
「すごっ。私はすぐ本代に飛んでいく……ゲーム代はっ?」
「お小遣いでやりくりしてるけど、クリアしたらすぐに親と売りに行くから大して痛手ではないかなあ。まあ、そういうわけだから」
 式見は店頭の買い物かごにワンピースをしわにならないように入れた。
 一瞬、他にも何かササッとカゴに放り込んだように見えたけど。
 私の視線に気づいた式見は、ニコッとほほえむ。
 うう、こういう時イケメンはずるいな。ドキッとしちゃうよ。
「帰ったら、ファッションショーだな」
「うそお……」