「ご迷惑をかけて大変申し訳ありませんでした」
そう言って龍弥が先生たちがいる事務局から出てきた。
「龍弥!」
「詩…悪かったな。巻き込んじまって」
あれから女の子たちはひとまず駅前にあるカフェに移動したらしい。
「今から話してくるわ」
「なにがあったかわかんないけど…あの人たちのこともだし大学のことも大丈夫なの?」
「あー…」
龍弥が頭をガシガシと掻いた。
「全然大丈夫!なんも心配いらないから!」
あ、この表情(かお)・・・
「あの、これ以上詩先輩を巻き込むのはほんとにやめてくださいね?」
一緒に待っていてくれた想汰くん。
「想汰くん、そんなー…「わかってる」
わたしの言葉を遮るように龍弥が言った。
「んじゃ行くわ」
ヒラヒラと手を振って歩いていく龍弥がこっちに振り向いた。
「俺、こんなことで負けねーよ?」
そして謎の言葉を残して去っていった。
え??
どう言う意味…???
わたしに言ったのかな…???
「先輩、行きましょ」
そう言ってわたしの手を繋いだ想汰くん。
だけど、わたしはパッと手を振り解いてしまった。
「先輩?」
「想汰くん、、さっきの言い方は…」
わたしのためだったってわかってる。
わたしを心配してくれたんだって。
「さっきのこと…わたしはよくわかんないけど、、龍弥が巻き込んだんじゃなくてわたしが自分からいったから」
なにが言いたいんだか、わたしは
だけどね
「だから、龍弥はなにもわたしにしてないの」
さっきの龍弥の表情を見たら、昔を思い出した。
〈詩ちゃんって走るの遅いし鬼ごっこ誘うのいやだ〉
〈えみと一緒のなかまは負けちゃうからいやだよー〉
〈この前詩ちゃんのせいで負けたー〉
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小学2年生の頃、運動音痴だったわたしはとにかく走るのが遅くて体育の授業であった鬼ごっこやリレーがものすごく嫌いだった。
ひょんなことだった。
休み時間にした鬼ごっこでわたしと一緒のチームだった男の子がわたしのせいで負けたって言い出してから、だんだんと疎外されていき、気づけば直接悪口を言われるまでになった。
別にいい。
私だって好きで運動音痴になったんじゃない。
こんなこと言う子たちと関わらなければいいんだ。
そう自分に言い聞かせていたけど、とうとう我慢出来なくなって学校帰りにひとりで泣いてしまった。
「どうしたの?」
そんなわたしに優しく声をかけてくれたのが2つ歳上で小学4年生の龍弥だった。
わたしが泣き止むまで近くの公園のベンチで隣に座ってくれていた。
「よしっ!じゃあ俺と走る練習をしよう!」
「走る…れんしゅう??」
わたしの話を聞いた龍弥は相手の子たちを否定的に言うのではなく、わたしの運動能力を上げようとしてくれた。
それからというもの、学校終わりに少し離れた公園に一緒に行って、門限まで走る練習に付き合ってくれた。
たまに練習に夢中になって門限を破って帰ると、龍弥はおばさんに叱られて泣きまくっていた。
小柄で初めて会った時は同い年?って思ったぐらいの泣き虫な男の子
でも
わたしを変えてくれた男の子
それが龍弥
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「龍弥のこと…悪く言わないであげてほしい…です」
謎の敬語になった。
「なんで…あんな奴庇うんですか?女取っ替え引っ替えしてる奴ですよ」
それでも
「龍弥はほんとは優しい人だから…」
わたしの練習に付き合って門限破っちゃったのに、自分が遊んでたって私を庇って嘘ついちゃうような人
泣いたあと、わたしに心配しないでって言いながら頭を撫でてくれた人
その時にしてた頑張って作った笑顔をさっきもしていた。
なにかを黙ってるんだ、きっと。
「龍弥はわたしを変えてくれた人なの」
わたしにとって大切な人。
恋愛感情とかじゃなくて、純粋に人として大切に想う人。
おこがましいけど
想汰くんにも少しでもそれが伝わってほしい。



