先輩はぼくのもの





「じゃ、俺バイトあるんで」

「バイトの後ちょっと時間いける?」

大学での授業終わり、バイトに向かおうとしたら田村先輩に引き止められた。


「なんですか?」

「おまえ、もうすぐ誕生日だろ?」




「…あー…ほんとですね。誕生日でした」

「なんで過去形なわけ?」


だって

「祝ってもらったことないですし」


覚えてるのは、小学生の頃周りの子たちは誕生日になると欲しいものを買ってもらったりケーキを食べたり…
ぼくには無縁だった。


むにっ
「いてっ」

いきなり頬をつねられた。


「なに辛気臭い顔してんだよ。これからは俺たちが毎年祝ってやるんだし」

「おれ…たち?」

「桜井さんと俺♪」

「…詩先輩だけでいいのに」

「はぁ!?おまえ、ほんとかわいくねーな!」


バレてないよな?
田村先輩の言葉が嬉し過ぎて泣きそうになってること。

ぼくには無縁過ぎる温かさに、戸惑ってしまう。
ひとがぼくの周りにいることにまだ慣れない。


慣れちゃいけない
忘れちゃいけないのに



「かーりやっ♪」


「……あき、ら…」


そんなぼくだから、神様が警告するんだろう。



大学の門に、中学以来に会う晃がいた。



「なんでここに…」

「えー、久々友達に会いに来ただけだけど?」



そんなわけない。



「田村先輩、ここで…すみません」

「あぁ」

空気を読んでくれたのか、田村先輩は何も聞かずにその場を後にしてくれた。



「狩谷、“友達”なんか作ってんの?」

「友達じゃない」


なんで晃が急にぼくの前に現れたのか。


「何の用だよ」

「つめたいねー。久々に会いに来てあげたのに」


会いに来た?
ただそれだけ?


「バイトあるから」

そんなわけない。


終始笑顔の晃が少し不気味に感じる。



「“あのパン屋さん”、なんでもうまいよなぁ」

ビクッ


その場を去ろうとしたが、晃の言葉に足が止まった。



「1番うまいのはクリームパンかな」


「…なにが言いたいんだよ?」

晃の方を向くと、またニヤッと笑っていた。



「別に。そこでバイトしてる女の人、可愛いなぁと思って♪」


ドクンッ!!



ガシッ
気づけば晃の胸ぐらを掴んでいた。


「わー。なにー。おーぼー」


「何かあるならぼくにしろ!先輩は関係ない!」


鼓動が速くなる。
嫌な予感しかしない。


「…ぶはっ!慌て過ぎだって!俺のことなんだと思ってんの?」


「テメェ…」


晃がズボンのポケットからスマホを取り出した。



「あのさ、何勘違いしてんのか知らねーけど、普通に会いに来ただけなんだけど?友達として」


は…?

「何言ってー…!」


「昔のこと謝りたいなと思って」


謝る…?
晃が…?


「あの時はー…「連絡先教えてよ。狩谷、番号変えたろ?」


たまたまなのか、わざとか
言葉を遮られた。


「…あぁ」


断ることも出来ず、連絡先を交換した。



「バイトなんだろ?引き止めて悪かった」

「いや、大丈夫。ぼくこそ時間なくてごめん」


「ぶはっ!!」

いきなり晃が笑った。


「なんだよ!?」

「あーごめんごめん。狩谷がそんな簡単に謝るなんてと思って」



笑ってる
あの頃の晃のようにー・・・


「じゃーな。また連絡するわ、バイト頑張って」

「あぁ。サンキュ」



パン屋さんに向かって少し走った。
足は自分でもビックリするぐらい軽快で、今の状況に麻痺してしまっていたんだ。

失いたくない、守りたいこの現在(いま)に。






「…キモ」

なに笑ってんの?
なに嬉しそうにしてんの?


狩谷(おまえ)だけ、なに幸せそうにしてんの?



「吐き気する」