先輩はぼくのもの


・・・・

「いって…!もっと優しくしてくれよ」

「あ?自業自得なくせにうるさいんですけど」


さっきの場所から数分の距離に住んでいた田村先輩。
出先からの帰り道でぼくらに遭遇したらしい。


で、今は田村先輩の家の近くにある公園で龍弥の傷の手当てをしている。

ぼくはといえば見てるだけで、手当てをしてくれてるのは田村先輩。



「田村先輩、ほんとにお人好し過ぎ。こんな奴の為にわざわざ家に救急箱とか取りに行かなくてよかったんですよ」

「おまえはうっせーんだよ!見てるだけのくせに!」

「龍弥(あんた)に話しかけたんじゃない」

「おまえら、ふたりともうるさい」

冷静な田村先輩の一言。



「よし、これでひとまず大丈夫っしょ」

手当てを終えて龍弥の隣に座った田村先輩。
ぼくはふたりが座っているベンチからほんの少し離れた遊具に座っている。


「…悪かった、巻き込んで」

ここでも謝れないぼくは、どれだけ歪んでいるんだろう。


「もうこれに懲りて浮気とかやめることですね」

どの口が言ってんだか。

「わかってんよ…」


詩先輩だけを想う
その覚悟だったんだろうな


「なんか辛気くせー。腹減らない?」

相変わらず何考えてるかよくわからない田村先輩。
いきなりそれ言う?


いや

わかって言ってるか
このひとなら。


「クリームパン、食べません?」

店長、まさかこうなるってわかってた?って
思ってしまうぐらいに偶然あるクリームパン3個。


「お!それうまいやつじゃん、食う食う!」

「想汰の言う通り、前に買った時もうまかった」

「え?なに馴れ馴れしく名前で呼んでるんですか?俺でも“狩谷”なのに」

「なに?ヤキモチ??」


なんか、よくわからない言い合いが目の前で行われている。

なんだろ、この感じ。


「うるさいですよ、こんな時間に」


すごく居心地がいい。
心が温かく感じる。


「クリームパン、マジうまいでしょ。ぼく、初めて食べた時衝撃で」


そう、これも本当。

「ほんとにうまくて、それを伝えたら喜んでもらえて」


口が勝手に動く。


「…本心なのに、本心じゃなくて。でも、覚えていてくれた」


ヤバ。


「なんて、意味わかんないですよね。すみません、忘れてください」


何が言いたいんだよ、ぼくは。


「思ってたんだろ?」


え…?


「よくわかんねーけど…、おまえがちゃんと思ってたんならそれは本心でいいんじゃね?」

龍弥が手に持っているクリームパンをまじまじと見ながらそう言った。


「他に意図があったのに?」


あやふやな状態で話を続けるぼく。
意味がわからない、自分の行動が。


「なに気にしてんのか知らねーけど、それは“うそ”じゃないと思うから」

龍弥はそう言うとぼくから目を逸らして黙々とクリームパンを食べ続けた。
公園の街灯越しだから、見間違えかもしれないけど
龍弥の顔が照れてるのか少し赤くなっているように見えた。

そんなわけないよな。



「心が柔らかくなったのかもな」

ニッと笑いながら田村先輩が言った。


ヤバイ


「…ふたりとも、意味わかんないです」


泣きそうだ



ぼくはこの幸せな空間に

幸せな時間に酔ってしまってたんだ。



隣同士で座る田村先輩と龍弥
そして、少し離れた所にいるぼく

この距離が正しくて正解

これ以上踏み込んじゃいけないのに



「よっしゃ!飲み行くか!」

「え、俺一応ケガ人なんだけど?」

「行きません。詩先輩と約束してて待たせちゃってるんで」

「うーわ、つめてー」


ぼく、笑ってる。

そんな資格なんてないのに



笑ってるんだ。



だから




・・・・・


「いきなりすみません。桜井詩さんですか?」


「え…えっと……」


バチが当たったんだ。




「狩谷の友人の、瀬戸晃(せとあきら)です」



詩先輩以外には
2度と心を開かないって決めたのに。