元カレ4人、同居はじめました。

夕暮れ。人気のない裏庭。
ベンチに座る花恋は、教科書を開いているふりをしながら、まったく頭に入っていない様子。

花恋(モノローグ)
(うるの執着も、司の迫り方も、想像の上をいってた)
(“好き”って、こんなにも圧があるものだっけ)
(いや、たぶん……私が逃げてきただけで、ずっと前から、そうだった)

ト書き:
静かな足音。
花恋が顔を上げると、桐生 澪が立っている。

桐生 澪「……隠れてるつもり?」

花恋(苦笑して)「隠れてないよ。逃げてるだけ」

ト書き:
澪が隣に腰を下ろす。
鞄から小さな本を取り出して、無言でページをめくる。

花恋「なんで……話しかけてくれるの?」

桐生 澪「……同じクラスだし」

花恋「それだけ?」

桐生 澪「あと、“黙って消えた理由”を聞いてなかったから」

ト書き:
花恋の手が震える。
澪は本を閉じて、まっすぐに彼女を見る。

桐生 澪「あのとき、何も言わずに別れたでしょ。……普通にムカついたよ」

花恋(うつむいて)「……ごめん」

桐生 澪「でも、それ以上に──傷ついてる感じがして、何も言えなかった」

ト書き:
風が吹いて、花恋の前髪が揺れる。

花恋「私、自分のこと好きじゃなかったから」
「ギャルやってても、真面目にしようとしてても、なんかいつも“演じてる”気がして」
「澪みたいな人と一緒にいるのが、だんだん苦しくなって……」

桐生 澪「なんで?」

花恋(ぽつり)「だって澪って、“ちゃんとしてる人”だから」
「私みたいに、ブレたりしないで、自分があるっていうか……」

桐生 澪(ため息混じりに)「……バカじゃないの」

花恋(びくっ)「は?」

ト書き:
澪が、花恋の教科書をそっと閉じる。

桐生 澪「俺は、ちゃんとしてるように“見せてただけ”だよ」
「……でも、花恋は全部、自分で決めてたじゃん。派手なときも、今も」

花恋(驚いたように)「え……」

桐生 澪「“どんな自分でもいい”って、ちゃんと選んできたんだと思ってた」

花恋(目を見開き、モノローグ)
(あのとき、私は自分が嫌いで、誰かの色に染まろうとしてただけだった)
(でも──澪だけは、ずっと、私を否定しなかった)

ト書き:
沈黙。やわらかい春風。

桐生 澪「俺は、花恋の全部が“まんまだな”って思ってた」

花恋「……まんま?」

桐生 澪(目を細めて)「つまり、“無理してない感じがする”ってこと」

ト書き:
花恋が不意に涙ぐむ。慌てて袖で拭う。

花恋「澪って、昔からそういうとこ……ずるいよ」

桐生 澪(穏やかに笑う)「うん。……でも、優しくしたいと思うのは、今も変わらないから」

ト書き:
澪が立ち上がり、そっと花恋の頭を撫でる。
指先が優しく髪をすくう。

桐生 澪「もし誰にも頼れなくなったら──俺にだけ、逃げてきていいよ」

花恋(モノローグ)
(澪の手は、静かであたたかくて)
(“好きだった”なんて言葉、軽すぎて言えない)
(でも、今一番、安心したのは──)