3月20日、羽田空港第六ターミナル。
世界中のメディアと関係者が詰めかける中、有栖川エアの新プライベートジェット「FA-1」就航式が、晴れやかな空の下で始まろうとしていた。
格納庫には真新しい機体が鎮座している。
そのボディに光を受けて輝くペイントは、白銀の翼に繊細なパステルピンクのライン、尾翼には──「Misato Fairy」の文字。
「まさか……私の名前が……」
美里はその名を目にした瞬間、思わず息をのんだ。
横で微笑む泰雅の横顔は、誇らしさと少しの照れくささを滲ませている。
「この機体は、“家族を守る翼”だ。君を空へ、夢へ、どこへでも連れていく。だから君の名前をつけた」
空には、少し早めの春風が吹き抜けていく。
記者のシャッター音が響く中、泰雅はパイロットスーツ姿でゆっくりとタラップを上がり、マイクの前に立つ。
「この“Misato Fairy”は、未来を運ぶ象徴です。愛する人の名前とともに、大切なものを運び、守る機体です」
その言葉に、美里の瞳が熱を帯びる。
しかしこの“誓いの翼”には、まだ語られていない想いが秘められていた。
式典が進むなか、美里はそっと格納庫の端に立ち、機体を見上げていた。
風が吹き抜け、スカートの裾を揺らす。
彼女の視線の先には、尾翼に刻まれた「Misato Fairy」の文字。
そのフォントは、かつて泰雅が自ら作曲したピアノ譜のタイトル文字を模していた。
「……これは、あなたが最初にくれた“愛の音”」
泰雅の歩く足音が背後から聞こえる。
彼は、記者会見を終えてすぐに彼女のもとへ向かってきた。
「風、冷たくない?」
「ううん、大丈夫。……それより、ありがとう。あんな名前を翼に託してくれるなんて」
「名前だけじゃない」
泰雅はふっと笑い、上着の内ポケットから、ひとつの小さなケースを取り出した。
「これが……“燃やす翼”の、もうひとつの意味だ」
中には、細工のほどこされたペンダントが入っていた。
中心には、小さな飛行機のチャーム。
それを支えるようにして“心をつなぐ鍵”のモチーフが重なっていた。
「君が俺の空を変えた。その証を、形にしたかった」
美里はその手を取って、そっとペンダントを胸に抱きしめた。
そのとき、ふたりの頭上を――“Misato Fairy”が初飛行で通過する。
青空に描かれた航跡は、やがて風にとかされながらも、確かに“心を燃やす翼”の軌跡を残していった。
【第35章『心を燃やす翼』 終】
世界中のメディアと関係者が詰めかける中、有栖川エアの新プライベートジェット「FA-1」就航式が、晴れやかな空の下で始まろうとしていた。
格納庫には真新しい機体が鎮座している。
そのボディに光を受けて輝くペイントは、白銀の翼に繊細なパステルピンクのライン、尾翼には──「Misato Fairy」の文字。
「まさか……私の名前が……」
美里はその名を目にした瞬間、思わず息をのんだ。
横で微笑む泰雅の横顔は、誇らしさと少しの照れくささを滲ませている。
「この機体は、“家族を守る翼”だ。君を空へ、夢へ、どこへでも連れていく。だから君の名前をつけた」
空には、少し早めの春風が吹き抜けていく。
記者のシャッター音が響く中、泰雅はパイロットスーツ姿でゆっくりとタラップを上がり、マイクの前に立つ。
「この“Misato Fairy”は、未来を運ぶ象徴です。愛する人の名前とともに、大切なものを運び、守る機体です」
その言葉に、美里の瞳が熱を帯びる。
しかしこの“誓いの翼”には、まだ語られていない想いが秘められていた。
式典が進むなか、美里はそっと格納庫の端に立ち、機体を見上げていた。
風が吹き抜け、スカートの裾を揺らす。
彼女の視線の先には、尾翼に刻まれた「Misato Fairy」の文字。
そのフォントは、かつて泰雅が自ら作曲したピアノ譜のタイトル文字を模していた。
「……これは、あなたが最初にくれた“愛の音”」
泰雅の歩く足音が背後から聞こえる。
彼は、記者会見を終えてすぐに彼女のもとへ向かってきた。
「風、冷たくない?」
「ううん、大丈夫。……それより、ありがとう。あんな名前を翼に託してくれるなんて」
「名前だけじゃない」
泰雅はふっと笑い、上着の内ポケットから、ひとつの小さなケースを取り出した。
「これが……“燃やす翼”の、もうひとつの意味だ」
中には、細工のほどこされたペンダントが入っていた。
中心には、小さな飛行機のチャーム。
それを支えるようにして“心をつなぐ鍵”のモチーフが重なっていた。
「君が俺の空を変えた。その証を、形にしたかった」
美里はその手を取って、そっとペンダントを胸に抱きしめた。
そのとき、ふたりの頭上を――“Misato Fairy”が初飛行で通過する。
青空に描かれた航跡は、やがて風にとかされながらも、確かに“心を燃やす翼”の軌跡を残していった。
【第35章『心を燃やす翼』 終】


