ノックの音が、静かな病室に響いた。
「はい」と返事をすると、ドアが少し開いて、看護師が薬のカートを押して入ってくる。
トレーの上に手を伸ばした看護師が、食べ残しにちらりと視線を落としながら言った。
「食欲、あまりなかったですか?」
「はい、ちょっと……今日は疲れてて」と紗良が答えると、看護師は柔らかく微笑んだ。
「これだけ召し上がったなら十分ですよ。むしろ偉いです」
そう言って、小さなカップに入った薬を手渡してくる。
水で薬を流し込みながら、少しだけほっとした気持ちになる。
この日常的なやりとりが、あの非日常から距離を取ってくれるような気がしていた。
薬を飲み終えたころ、開けっぱなしだった病室の扉の向こうに、ふと気配が走る。
音もなく、橘が静かに入ってきた。
気づけば背筋が伸びていた。彼の姿を見ると、自分の中にある“緊張”と“安心”が同時に反応する。
無言で軽く会釈し、看護師と視線を交わした橘は、淡々と病室の中へと入ってくる。
交代の時間なのかもしれない。そう思ったが、確認の言葉は飲み込んだ。
代わりに、ただ一言、自然と口から出た。
「……おかえりなさい」
橘はその言葉に、一瞬だけ表情を和らげた気がした。
「はい」と返事をすると、ドアが少し開いて、看護師が薬のカートを押して入ってくる。
トレーの上に手を伸ばした看護師が、食べ残しにちらりと視線を落としながら言った。
「食欲、あまりなかったですか?」
「はい、ちょっと……今日は疲れてて」と紗良が答えると、看護師は柔らかく微笑んだ。
「これだけ召し上がったなら十分ですよ。むしろ偉いです」
そう言って、小さなカップに入った薬を手渡してくる。
水で薬を流し込みながら、少しだけほっとした気持ちになる。
この日常的なやりとりが、あの非日常から距離を取ってくれるような気がしていた。
薬を飲み終えたころ、開けっぱなしだった病室の扉の向こうに、ふと気配が走る。
音もなく、橘が静かに入ってきた。
気づけば背筋が伸びていた。彼の姿を見ると、自分の中にある“緊張”と“安心”が同時に反応する。
無言で軽く会釈し、看護師と視線を交わした橘は、淡々と病室の中へと入ってくる。
交代の時間なのかもしれない。そう思ったが、確認の言葉は飲み込んだ。
代わりに、ただ一言、自然と口から出た。
「……おかえりなさい」
橘はその言葉に、一瞬だけ表情を和らげた気がした。



