紗良は玄関の扉を静かに閉め、深く息を吐いた。
鞄をソファに置き、上着を脱ぎ、手早く部屋着に着替える。
そのまま、何も考えずにバスルームへと向かった。
シャワーのスイッチをひねると、温かな水が肩を叩くように降り注ぐ。
その熱に少しずつ体が緩んでいくのを感じながら、紗良は静かに目を閉じた。
鏡の前に立つと、湯気の中でぼやけた自分の顔が映る。
いつもよりほんの少し、血色が戻っていた。
「……なんとか見れるか」
ぽつりと呟いて、ふうっと小さく息を吐く。
そしてその瞬間だった。
堰を切ったように、シャワーに紛れて涙が零れ落ちた。
音もなく、流れていく水の中に涙が混ざっていく。
誰にも見られない場所で、何度も繰り返してきたことだった。
何かにつけてこぼれる感情は、人前では見せなかった。
いつも一人きりで処理してきた。
でも――
今夜は、それとは違っていた。
これまででいちばん、心細かった。
心の芯が凍えるような、空虚な夜だった。
自分は“警護対象者”でしかなくて、
隣に立つ人たちは皆、“任務”として傍にいる。
あの無表情な橘の目も、自分を「守るべき任務」として見つめていた。
それが当然なのだとわかっているのに、どうしてだろう。
胸の奥に、ぽっかりと穴があいたように感じた。
一人なのだと思い知らされるようで、泣けて仕方がなかった。
水音だけが、優しく響いていた。
鞄をソファに置き、上着を脱ぎ、手早く部屋着に着替える。
そのまま、何も考えずにバスルームへと向かった。
シャワーのスイッチをひねると、温かな水が肩を叩くように降り注ぐ。
その熱に少しずつ体が緩んでいくのを感じながら、紗良は静かに目を閉じた。
鏡の前に立つと、湯気の中でぼやけた自分の顔が映る。
いつもよりほんの少し、血色が戻っていた。
「……なんとか見れるか」
ぽつりと呟いて、ふうっと小さく息を吐く。
そしてその瞬間だった。
堰を切ったように、シャワーに紛れて涙が零れ落ちた。
音もなく、流れていく水の中に涙が混ざっていく。
誰にも見られない場所で、何度も繰り返してきたことだった。
何かにつけてこぼれる感情は、人前では見せなかった。
いつも一人きりで処理してきた。
でも――
今夜は、それとは違っていた。
これまででいちばん、心細かった。
心の芯が凍えるような、空虚な夜だった。
自分は“警護対象者”でしかなくて、
隣に立つ人たちは皆、“任務”として傍にいる。
あの無表情な橘の目も、自分を「守るべき任務」として見つめていた。
それが当然なのだとわかっているのに、どうしてだろう。
胸の奥に、ぽっかりと穴があいたように感じた。
一人なのだと思い知らされるようで、泣けて仕方がなかった。
水音だけが、優しく響いていた。



