キミのために一生分の恋を歌う③ －extra stage－

8月14日の午後9時から。
藤が谷にある大きなショッピングモールで、bihukaのライブのリハーサルが行われる。
もうとにかくスタッフがたくさんで、bihukaがどれだけ大きな存在なのか思い知らされる。

「マネージャー。あたしのデビューライブの時、この箱の10分の1くらいだったよね？」
「それもPステにうちの𝐜𝐚𝐫𝐚𝐦𝐞𝐥 𝐜𝐨𝐫𝐧のバーターで出られたからやっと埋められたやつだけど」
「はぁあ。なんか住む世界が違うって感じ」

あたしがしょんぼりしていると、スっと空気が変わった。
まるで、何もない世界に神風が吹いたみたいに。
雰囲気がガラッと変わって。

『bihukaさん、入りまーす』

と言うスタッフの声でさえ、緊張感に満ちて張り詰めてた。
そして現れる、ホンモノのbihuka。
あたしも生配信やニュースで姿を観てたから、もう特別に驚くことなんてないと思ってた。

でも全然違った。
ホンモノは全然違う。

「こんなの世界が違うなんてもんじゃないよ……」

bihukaがあたしの目の前を通った。
その透き通った青い瞳があたしを捉えて、心まで見透してくるみたい。
そして、何も言わずに微笑まれただけで好きになってしまいそう。
通り過ぎたあとですら、もう胸をつかまれて離れない。

「すごいわね、bihukaの存在感」
「あたし、勘違いしてたかな。自分が少しだけ可愛くて、歌の才能もあるって。勘違いしてた。あぁいうのがホンモノで。あたしなんて、永遠に勝てっこないのかな」
「さぁね。でもそう思うなら彼女の歌を聴けばいいんじゃないかしら。貴方も歌手なら歌で語るべきよ」

そう言って、マネージャーはただ黙った。
あたしも頷いて、舞台に上がる彼女を見つめる。