キミのために一生分の恋を歌う③ -extra stage-

全てを出し切ったあの日。
8月31日。
bihukaのラストステージが終わって、正式にbihukaの活動休止が報道された。

その次の日の、9月1日。
私は大事をとって、しばらく逢坂大学病院に入院することになった。
部屋がノックされて応えると扉から小春がひょっこりと顔を見せ、心配そうに様子を見てきたので、笑顔で手を振った。

「お姉ちゃん、おはよう。昨日はお疲れ様」
「おはよう小春。こんなに早く来なくても大丈夫だったのに。小春も疲れたでしょう? ちゃんと寝られた?」
「んー、まぁウトウトって感じかな」

もう、と小春のことを抱き寄せた。
小春はよほど寂しかったみたいで、お姉ちゃんと甘えてくる。
まだ15歳なんだ。
これからしばらくは自分の時間を持てるはずだから、いっぱいいっぱい小春との思い出も作りたいなと思った。

そんなことを考えているとまた部屋の扉が開き、まだ眠そうな晴が現れた。

「おはよう。もう小春さんも来てたのか」
「諏訪野先生、おはようございます。昨日はお世話になりました」
「いやいや、こちらこそ。お互い大変な1日だったね」
「ほんとに(笑)」
「あの〜、2人ともそれって私のせい?」

と言うと、同時に頷く二人。

「えー! 私結構頑張ってたよね!? 身体張ったって言うか、命かけましたよ!?」
「それがダメなんだろ」
「そうだよ。これからはもっとちゃーんと諏訪野先生の言うこと聞かないといい加減怒るからね!」
「はい……」

晴はしょぼんとする私を見て、少し笑いを堪えながら診察を始める。もう小春がいても何がいても、特に何も言わずにどこでも診察する。私も晴が何をしたいのか何となく分かるので、何も言われなくても黙って従う。

「よし、喘息はまぁまぁ落ち着いてるね」
「それで先生、いつまで入院になりそうですか」
「まだ分からないかな。小夏の場合、悪いところがあり過ぎて落ち着くまで時間がかかりそう」
「え〜」
「ま、お姉ちゃん。今まで無理した分、ツケが回ったと思ってゆっくり休んでね」

思わずため息をつくと、晴が幸せが逃げていったなと笑った。

「退院できたらどこ行くか考えておいて。僕も小夏が好きそうなところ、たくさん探しておくから。時間はあるだろ?」
「いいね〜お姉ちゃん! デート沢山できるじゃん」
「えへへ……じゃーあ……」
「あ、妄想タイム入ったな」
「みたいですね」

晴と小春が互いの目を合わせて、また笑っていた。
病室の中には柔らかな秋の日差しが差し込んでいた。