海に凪ぐ、君の名前

そして、座り込んでいる人影に近寄る。

ていうか___

(めっちゃ、綺麗な顔してない?)

え私より、肌綺麗じゃん。まつげ長!

恐る恐る近ずくと、その人は手を擦りむいたのか、血が滲んでいて顔も歪んでる。

え、男の子?

『あのー…、』

思わず声をかけようとした瞬間、頭の上で凄まじい爆発音が響いた。

思わず空に目を奪われる。それが、花火だと気づいたのは、少ししてからだ。

空が昼のように明るい。

(やっぱり、空の方が綺麗だ)

花火を見ると、安心する。花火が上がるとみんな空を見てくれる。

それを見ると、想良である自分が全部正しかったみたいに思え___



『羽美…』



『…え?』

その子の声は、花火の轟音をすり抜けて、私の鼓膜を揺らした。

羽美って言った?私の事呼んだ?

え、なんで名前知ってるの?

言いたいことは山ほど浮かんだ。

でも、それは声になることなく、花火の音で無かったことになる。

目の前にいる子は、空に上がる花火じゃなくて、海を見つめていた。

それを見てやっと、ハッとする。

(あっ…海…ね)

眩く光る空よりも、ゆらゆらと曖昧に反射する海だけを一心に見つめている。

つい笑ってしまう。

(変な人)

花火が上がってたら、普通空を見上げるだろう。

それなのに、この子は下ばかり見ていて。

そんな姿に、押し付けがましいけれど、つい思ってしまったんだ。

この子はもしかしたら、本当の私を見てくれるんじゃないか、って。

どれだけ白に塗りつぶされてグレーになったって、そこにはちゃんと黒があった、って言ってくれるんじゃないかって。

さっきの呟きが海のことだって分かってる。

でも。

それでも。

本当の私のことを呼んでくれたって勘違いしたい。

『…なーに?』

そう声をかけると、ゆっくり振り向いた。

『…は?だれ』

その驚いた顔に、思わず笑ってしまった。