海に凪ぐ、君の名前

スタジオの重たい扉を開けると、そこは相変わらず騒がしい。

「本番入りまーす!」と声がかかる。

想良は深呼吸を一つして、立ち上がる。

カメラの前まで歩いて、振り返る。

「ねえ!」

「なに?」

「さっきの言葉!」

(また、蒸し返すのか?勘弁してくれよ)

苦く口の端を上げて、眉を寄せた。

それを見た彼女はふんわりと笑った。

「今まで言われた言葉の中で、いっちばん嬉しかった!!」

そして、笑った。

この笑顔は炎上中の女優とは思えないほど純粋だ。

きっとこれが彼女の本当の笑顔だ。

拳に力がこもる。

彼女が怖いものに立ち向かうなら、俺はその背中を守る。

ライトに眩しい光が灯る。カメラが一斉に向く。

「この夏は____」

声が詰まる。

俺は彼女の手をとった。

驚いて見上げる彼女に微笑んだ。

いつもの作り物じゃなくて、“沖野 凪希”として。

彼女も笑う。彼女の笑い方で。

「素敵な時間を過ごしませんか?」

大きく息を吸って、カメラに微笑む。

「カット!!」
「いいね!想良ちゃん!」

明るい雰囲気と声。

想良は俺を振り向いて、得意げに微笑んだ。