リュックに昆虫観察ノートと筆記用具を詰めて、家を出た。

 昨日の夜のリュックは、ワクワクして、運動苦手なのにバトミントンのラケットやボールやら、いろんなものが入って、締まらないほどだった。

 今日の朝、さすがに恥ずかしい、と思い直し、最終的に必要なものに落ち着いた。


 今日は、長野駅集まり。

 若葉さんとは、研究会であるけど、蕾ちゃんと駅で集まるのは初めてだ。


 上田駅から電車に乗って、長野駅に向かう。

 今日は、電車で少し勇気を出してみた。

 前に駅で落としてしまったハンカチ(04参照)を、駅員さんにまだあるか尋ねてみた。

 駅は、一週間ほど忘れ物を管理して、その後、近くの警察署に行くのだそう。おそらく私が、1年ほど前に、落としたハンカチはもう、処分されているだろうとのこと。

 今から、動いたって戻ってこないものもある。取り返しがつかないこともある。

 だけど、それに打つのめされても、落ち込んでも、その後、前に進んでいけばいい未来が見えてくるはず。

 私は、苦しかった気持ちも、失ったハンカも越えて、蕾ちゃんと若葉さんと、研究会のみんなと、これから出逢っていく人と、大切な大切な、「最高」「幸せ」って思えるような思い出を作っていく。


 アリのように必死に。

 そして、トンボのように、立ち止まったり、後戻りしながら。

 シジミチョウのように、柔らかな青に染まった翅を自在に動かして、私は飛んでいく。

 遥か彼方まで。

 
 「うしないたくない。研究会のみんなと、もっと楽しいことをしたい。蕾ちゃんと若葉さんのことも、私を理解してくれた私の苦しい気持ちも理解してくれた進友(しんゆう)だから。その為に、力不足だけど、」必死に頑張りたい。 芽生」

 昆虫研究室の扉の横に飾られた新聞。安桜芽生の寄せ書きの端に、そう、書き込まれていた。