神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

俺は後ろに歩いて、カウンターから100メートル以上離れた。

「ちょっと!あなた、何処に…!」

俺が逃げようとしていると思ったのか、入国審査官は声を上げようとしたが。

俺の意図をいち早く察したルイーシュが、それを制した。

ありがと。

俺は、愛用の魔銃を2丁、その場に召喚した。

「魔弾装填」

魔銃に魔弾を込め、狙いを研ぎ澄ませる。

狙うは、あの花瓶のアネモネ。

そのまま、引き金を数回絞る。

ぱしゅ、ぱしゅっと乾いた音がして、程良く威力を絞った魔弾が、1輪のアネモネに命中。

花びらが1枚ずつ、額から剥がれ落ち、はらはらと花瓶の下に舞った。

あっという間に、茎と葉っぱだけにされた、気の毒なアネモネ。

ごめんな。君に罪はない。

でも、俺の力を証明するには、やっぱり魔弾を使うのが一番だと思って。

「…」

これを見て、さっきまで訝しげな表情をしていた入国審査官は。

口をぽかーんと開けて、床に落ちた花びらを見つめていた。

大丈夫か?

「…とまぁ、俺の魔法って…こんな感じなんですけど…」

「…」

「…信じてもらえました?」

これで「やっぱりダメ」って言われたら、もうどうやって証明したら良いのか分からねぇよ。

すると。

「…あ、は、はい。分かりました。あなたは確かに、魔導師ですね」

納得してくれたようだ。

それは何より。

「では、お連れ様も魔法を使って見せてください」

今度は、くるりとルイーシュの方を向いて頼んだ。

俺一人だけじゃ、パスさせてくれないらしい。

何人連れであろうと、家族だろうと、一人ずつ魔法を使わせないと、証明したことにはならないのだ。

だが、心配しなくても、ルイーシュは魔法の腕「だけ」は、俺よりも優秀だ。

「そうですね…。では、rtanspotr」

ルイーシュは、愛用の杖を軽く振った。

すると、途端に。

俺、ルイーシュ、入国審査官の女性の3人は。

遠く、遥か空の上に、空間転移された。

まさかの空中浮遊。

「え、え、えぇぇぇぇ!?」

これには入国審査官も目を丸くして、叫んでいた。

そりゃそうなる。

さっきまで地上の、建物の中だったのに。一瞬にして空の上に瞬間移動されちゃ。

「じゃ、戻りますね。再度、rtanspotr」

「ひぇっ…」

ルイーシュがもう一回杖を振ると、元の場所に戻ってきた。

何事もなかったかのように。

ルイーシュお得意の、空間魔法である。

俺はもう慣れたもんだが、入国審査官にとっては、驚愕の体験だったようで。

何が起こったか分からない、みたいな顔で、目を白黒させていた。

まぁ、無理もない。

多分誰でも、初見はビビる。

「い、い…今のは…?」

「空間魔法ですよ。キルディリアにもあるのでは?」

しれっ、と言うルイーシュ。

「空間魔法…!ここまで高度な…?」

キルディリア魔王国の空間魔法のレベルって、どんなもんなのかね。

「我々が魔導師だってこと、信じてもらえました?」

「も、勿論です…!ようこそいらっしゃいました、魔導師様」

にっこりと微笑む、入国審査官の女性。

素晴らしい笑顔だな、おい。

「…で、俺達、さっきも言った通り亡命させて欲しいんだけど…」

「畏まりました。亡命希望ですね?ようこそ、キルディリア魔王国へ」

「…」

…え?マジ?