神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

胃の中のものを全部吐いて、ちょっとスッキリしたので。

「よし…。上陸前に一回、今後の打ち合わせをしておこうぜ」

「波が激しいから、甲板に出るのは禁止だそうですよ。つまらないですよねー」

「おい。話を聞けって」

俺達、これからスパイしに行くんだぜ。

遊びに行くんじゃないんだ。分かってるか?なぁ。

「はい、何ですか」

何ですかじゃなくて。

「これからのことだよ。キルディリア魔王国に。スパイしに行くの」

「えぇ、そうですね」

ちゃんと分かってるんだな。よろしい。

「打ち合わせ通り…。まず、キルディリア魔王国に着いたら、そのまま入国検問所とやらに誘導されるそうだから、そこに向かう」

「はい」

「で、そこで、素直に身分を明かす。俺達がルーデュニア聖王国の、聖魔騎士団から来た魔導師だってことを、キルディリアに亡命しに来たってことを、入国審査官に包み隠さず伝えるんだ」

ジュリスやベリクリーデちゃんや、無闇君やシュニィちゃんと違うのは、その点。

俺達は、正体を隠してキルディリア魔王国に潜入した彼らとは違う。

例の入国審査の時点で、身分と名前を明かし。

キルディリア魔王国に亡命を求めに来た、ってことを伝えるのだ。

その時点で、俺達のスパイ任務が始まる。

「それで、素直に亡命させてくれますかね?」

「さぁ、どうかね…。そんなに物分かりの良い入国審査官なら良いが」

シュニィ達の話を聞く限り。

結構お役所主義って言うか、杓子定規な感じの対応をされたってことだから。

「どうも!亡命しに来ました!」なんて言ったら。

「はぁ?何言ってんのお前ら?」って言われるかも。

「まぁ、一悶着、二悶着くらいはあるかもな…」

さすがに、入国検問所でバトルが勃発、ってことはないだろうが。

多少の揉め事くらいは、覚悟しておいた方が良いかもな。

「何なら、入国拒否されて、ルーデュニア聖王国に送り返されるかもしれませんね」

「マジかよ。ここまで来てとんぼ返りとか…」

情けないにも程がある。

いや、それはそれで、俺達にとっては平穏だけどな。

「じゃあ…まぁ、一応亡命が認められた仮定で話を続けるが」

「はい」

「仮に亡命成功したら、頑張って上級魔導師に認定してもらう」

「…してもらえますかね?」

…さぁ。

学院長は、「君達の実力なら、間違いなく上級魔導師に認定されるはずだよ」とか言ってたが。

…本当かねぇ?

「ルイーシュは空間魔法を見せれば、問題なく上級魔導師認定されるだろうけど…」

俺はどうかね。

俺は魔弾使い…マギアシューターだからな。

キルディリア魔王国で、マギアシューターがどういう扱いをされてるのか知らないから、何とも言えない。

「マギアシューター?プッ、使えねww」って、半笑いで拒否されるかも。

「俺が駄目だったら、ルイーシュ。お前だけでも上級魔導師に…」

「いや、キュレムさんがもし拒否されたら、俺も拒否しますから。辞退します」

おい。何言ってんの。

「何でだよ?」

「何でだよ、じゃありませんよ。キルディリア魔王国では、あなたが唯一の味方ですよ?足並みが揃わなかったら、スパイ活動どころじゃありませんよ」

あぁ…うん、それはそうなんだけど…。

「あと、キュレムさんがいなかったら、どうせ俺のやる気が出ないんで」

「…お前なぁ…」

「ってな訳で、俺にやる気を出させたいなら、あなたも死に物狂いで上級魔導師になってください」

…マジかよ。

俺が無理だったら、せめてルイーシュだけでも…と思ってたけど。

ルイーシュの我儘により、それどころじゃなさそうだ。