神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

令月とすぐりは、何とか説得に成功した。

となると、他にスパイ候補となり得るのは…。

「…本当は、僕が真っ先に手を挙げたいんだけど」

マシュリが、ポツリと口を開いた。

「アーリヤット皇国の…ナツキ皇王のことも気になるし…。皆に受けた恩を返す為にも、危険を伴う任務なら、僕が率先して引き受けたいと思ってる」

「マシュリさん…。私達は別に、あなたに恩を返して欲しいなんて思ってませんよ」

「ありがとう、シュニィ。…だけど…僕は魔導師じゃない。キルディリア魔王国に、魔導師として潜入することは難しいと思う」

マシュリは悔しそうに、いかにも口惜しいという表情で言った。

…そうだな。

マシュリは魔物…ケルベロスと人間のハーフであり。

冥界でも最高位の魔物とされる、神竜族バハムートの血を引いている。

マシュリが本気で暴れたら、多分、俺達が束になっても、マシュリ一人に勝てないと思う。

だけど…マシュリは、強い魔力を持っているけど、厳密には魔導師じゃない。

魔導師として、キルディリア魔王国に潜入することは出来ない。

「猫の姿で良いなら、いくらでも潜入可能だけど…。どうしよう?」

「いえ…。マシュリさん、あなたはやめた方が良いと思います」

シュニィが首を横に振って、そう言った。

「どうして?」

「キルディリア魔王国には、きっと召喚魔導師もたくさんいるでしょう。あなたが…その、普通の人間ではないことを、悟られてしまうかもしれません」

「…」

シュニィは申し訳なさそうに、口ごもりながら言った。

シュニィの言わんとすることは分かる。

見る人が見れば、マシュリを「人間でもないし、魔物でもないし、コイツは何だ?」と思われてしまうかもしれない。

疑われる、警戒されるというのは、スパイとして非常に危うい欠点である。

「…ごめんなさい…マシュリさん」

「なんでシュニィが謝るの?…不甲斐なくて申し訳ないのは、僕の方だよ」

「お前のせいじゃないよ、マシュリ」

俺達の役に立ちたい、と…そう思ってくれている。

その気持ちだけで、充分有り難い。

大体、マシュリにはちゃんと、学院に残ってもらわないと困る。

「またいろりちゃんが居なくなった」と、生徒達が悲しむじゃないか。

この脱走猫め。

「…ってことは、イーニシュフェルト魔導学院組は全滅ですね。まさか、学院長と羽久さんがキルディリアに行く訳にはいきませんし」

と、ナジュ。

「…そうなるな」

言っちゃったからな。イシュメル女王に。

「誰がこんな国に亡命なんかするか!」って。啖呵を切ってしまった。

「分かってると思うが、俺とシュニィも無理だ。つい最近、キルディリア魔王国に行ったばかりだからな」

無闇が言った。

そうだな。

シュニィと無闇も、イシュメル女王の誘いを断って、帰ってきたんだから。

今更キルディリア魔王国にとんぼ返りしたら、当然疑われるに決まってる。

俺も無理、シルナも無理。

ナジュも天音も、イレースも無理。

令月とすぐりも当然無理だし、マシュリも無理…。

で、シュニィと無闇にも無理…。

…なんか、段々と候補が減ってきたな。

残るは…。

「俺は、別に行っても良いぞ」

ジュリスが、自らスパイに立候補してくれた。

おぉ。これは頼もしい申し出だ。

「俺は以前、キルディリア魔王国に潜入したこともあるしな。あの国のことなら、多少は知識がある」

「ジュリスなら、実力も確かだもんな…。安心して任せられるよ」

「そうか。そりゃ光栄だな」

なら、スパイ候補の一人はジュリスということで。

何だか、俄然何とかなりそうな気がして、

「…?ジュリス、お出かけするの?」

ベリクリーデが、ジュリスに向かって尋ねた。