神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

…30分後。

「うぅ…。酷い目に遭ったよ…」

ようやく、生身の人間…シルナ…だと気づいてもらえた。

と言うか、騒ぎを聞きつけた、子守役のエレンさんという女性が。

タコ殴りにされているシルナを見て、慌てて止めてくれた。

彼女は天使だな。

今は、ルシェリート宅の居間で、持ってきたケーキとお茶をご馳走になっているところだ。

「いや、学院長とは気づかなかった。てっきり、アイナを襲いに来た新手の山賊かと…」

まったく、一片の悪気も悪意もなく、アトラスが言った。

山賊に間違われる男、シルナ。

まぁ、シルナは、普通に街を歩いていても、不審者と間違われてもおかしくないからな…。

「うぅ…。羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…」

「そうか」

「でも、チョコテリーヌがあるから良いもんね!アイナちゃん、一緒にチョコテリーヌ食べようっ?」

さっきまで、新聞剣でタコ殴りにされていたというのに。

シルナは、アイナに向かって微笑みかけた。

…の、だが。

「アイナ、チョコいらない」

「えっ、なんで!?」

「イチゴのが良い」

…やはりな。

小さい子は素直だ。

「そう言うと思って、イチゴのケーキも買ってきたよ。ほら、アイナ」

「わーい」

俺はケーキボックスから、いちごのショートケーキを取り出し。

アイナの取り皿に分けて、彼女に与えた。

「レグルス、ほーら。イチゴだよー。あーん」

優しいお姉ちゃんのアイナは、レグルスを膝の上に乗せ。

自分のショートケーキのイチゴを、レグルスに食べさせてあげていた。

なんて良い子なんだ。

ショートケーキのイチゴという貴重な食べ物を、惜しげもなく弟に分けてやるとは…。

「アイナは良いお姉ちゃんだな…」

「そうだろう!?シュニィの教育が良いからな」

ドヤ顔のアトラス。

はいはい。

…それで。

「アトラス…。一体何をやってたんだ?」

「ん?」

「さっきの…。その変なマネキンとか、新聞紙の剣とか…」

「あぁ。最近アイナとハマっている、山賊狩りごっこだ」

「…」

…これが、噂の。

女の子のやる遊びじゃねぇ…と言いたいところだが、そういう差別的な発言は良くないな。

男の子だって、女の子に混じっておままごとをやる時代。

女の子が山賊狩りごっこをやっていても、おかしくはな…。

…。…おかしくはないと、言い切れない自分がもどかしいよ。

さっきのアレを見せられた後ではな…。

「よーし、アイナ。それじゃあアイナには、お父様が食べさてやろう」

「やったー」

アトラスは、アイナを膝に乗せ。

自分のフルーツタルトから果物を取って、アイナに食べさせてあげていた。

微笑ましい親子だ。

さっきまで山賊狩りごっこをしてたのが、嘘みたいだな。

それに、子供達は二人共元気そうだ。

シュニィがいなくて、寂しがっているかと思ったが…。

「…シルナ…」

「…うん。やっぱり心配無用だったみたいだね」

シュニィ。こっちは心配しなくても大丈夫だ。

だから、お前も…お前も無闇も、無事に帰ってきてくれよ。