神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

「今でこそ、キルディリア魔王国軍は快進撃を続けています。ですが、アーリヤット皇国も無力ではありません」

アーリヤット皇国には、キルディリア魔王国のような強力な魔導師軍はない。

けれど、代わりに『HOME』がいる。

ナツキ様の懐刀…かつて、ネクロマンサーのルディシアさんや、それにマシュリさんが所属していた、皇王直属軍が。

それに、ナツキ様の性格からしても…。黙って、一方的にやられっぱなしにはならないだろう。

いずれ必ず、ナツキ様は反撃に出る。

そして、アーリヤット皇国を守る為に、『HOME』の精鋭達も戦場に投入されるだろう。

彼らの強さは、嫌と言うほどよく知っている。

私達はかつて、実際に『HOME』と決闘を行ったのだから。

祖国の防衛戦となれば、『HOME』も死に物狂いで抵抗してくるだろう。

キルディリア魔王国軍と、アーリヤット皇国の精鋭、『HOME』との決戦が繰り広げられることになる。

…きっと、これまでにないほど…恐ろしい泥沼の争いになるはずだ。

果たしてイシュメル女王は、そのことが分かっているのだろうか。

アーリヤット皇国を侵略するのは、そう簡単なことではないのだと。

…しかし、イシュメル女王は余裕綽々といった様子で。

「無論、かの国の精強さも分かっておるわ。おぬしに言われるまでもなくな」

「そうだと良いのですが」

「心配要らぬ。わらわには、まだ『隠し玉』もあるでな」

…「隠し玉」…?

「おや、口が滑ったか」

「何なんです…?『隠し玉』って…。あなた一体、何を…」

「言ったであろう。これ以上教えてやる義理はないと」

「…くっ…」

…なんてこと。

イシュメル女王の、この余裕の表情。

余程、その「隠し玉」とやらに自信がるのだろう。

この人は…一体何を企んでいるのだろう?

「さぁ、これ以上の問答は終わりじゃ」

「!」

イシュメル女王は、ぱちんと扇を閉じ。

玉座の肘掛けに手をついて、その場から立ち上がった。

「もてなしも何も要らぬのじゃろう?今度は引き留めはせぬ。自分の国に帰るが良い」

「っ…!お待ち下さい、イシュメル陛下。お話はまだ…!」

ここで退いてしまったら、私は何の為に、危険を犯してキルディリア魔王国まで来たのか。

止めなくては。これ以上の泥沼の戦争を許せば、世界の…私達の平和は…!

「これ以上は聞かぬ。わらわの気が変わらぬうちに、早々に帰るが良い」

イシュメル女王は、厳しい眼光を向けただけだった。

「そんな…!お待ちを、」

「シュニィ」

なおも食い下がろうとした私を、無闇さんが制した。

「潮時だ。帰るぞ」

「ですが…!まだ、何も…!」

「これ以上食い下がれば、反逆罪に問われかねないぞ」

「…っ…」

…だけど。でも。

このまま帰っても、私達は何の為に…。

「伝えるべきことは伝えた。やるべきことはやったんだ。誰もお前を責めはしない」

「…無闇さん…」

「帰るぞ」

「…」

私は項垂れながら、無闇さんに従って王の間を辞した。

…危険を犯してまで、キルディリア魔王国までやって来たのに。

私は結局…。…何も出来なかった。