神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

私達が、ルーデュニア聖王国からの…。…シルナ・エインリー学院長の使いだと知らせると。

大歓迎ムードで、すぐさまイシュメル女王のいる王の間に通された。




「おぉ。よく来たな、ルーデュニアの使者達よ」

玉座に腰掛けたイシュメル女王は、ふわふわとした飾りのついた豪奢な扇を、口元に当て。

「苦しゅうないぞ。ちこうよれ」

「…」

…門前払いされなかったことは、有り難いのだが。

しかし、シルナ学院長先生は、逃げるようにこの国を出ていき。

その後、イーニシュフェルト魔導学院とキルディリア魔王国軍との間で、一悶着あったばかりなのだ。

もっと警戒され、敵意を向けられ、捕虜のように扱われることさえ、覚悟していたというのに。

まるで、大事な客人を迎えるかのような歓迎ぶり。

これには、戸惑いを隠せなかった。

「…イシュメル陛下…」

「おぬしらが来ると知っていれば、港に迎えを寄越し、盛大な宴を用意してやったものを」

「…」

「まぁ、今からでも遅くはないわ。今夜は、おぬしらを歓迎する宴を催そう。すぐに準備を…」

「イシュメル陛下。…有り難いお申し出ですが、そのようなおもてなしは…」

宴なんて…。私達は、旅行しに来た訳ではないのだから。

「…なんじゃ。冷や水でも飲ませられたような顔をして。なんぞ不満がある?」

…そう。そんな顔になってましたか?

「そんな…。不満などは…」

「遠慮をする必要はないぞ。おぬし、その髪の色と瞳の色…アルデン人じゃろう」

「…!」

思わず、私は身体を緊張させた。

私はこれまで、至るところで、たくさんの人に「薄汚いアルデン人」と蔑まれ。

その度に、胸が締め付けられるような思いをしてした。

シルナ学院長先生や、羽久さんや…それに誰よりも、アトラスさんに出会ってから。

こんな私でも、価値があるしれないと思えるようになったけど。

私を認めてくれる優しい人々と出会う前は、誰も信じられない、という酷い人間不信に陥っていたこともある。

その嫌な記憶を、再び思い出した。

…しかし、イシュメル女王は。

「そう緊張する必要はない。おぬしがアルデン人だろうと関係ないわ」

「…」

「わらわがいる限り、この城で、おぬしがアルデン人だからと蔑視する者はおらんと、太鼓判を押してやってもよいぞ」

…意外だった。

人種による差別は、この国にはないらしい。

「何よりおぬしらは、かのイーニシュフェルトの聖賢者…。シルナ・エインリーの使いじゃ。歓待してやらねば、かの聖賢者殿に失礼というものよ」

「…そうですか。…それは光栄です」

イシュメル女王は、扇で口元を隠しながら、愉快そうに微笑んだ。

…この人が何を考えているのか、いまいち読めない。

交渉相手としては、非常に難しい。

何と言って、本題を切り出したものか…。

「うむ。この国にいる間は、わらわの名において、おぬしらに不自由な思いはさせまいぞ。王宮に部屋を用意しよう。そこでゆるりと…」

「人種による差別はしないのに、非魔導師のことは平気で差別するんだな」

「む、無闇さんっ…?」

言葉に詰まる、私の代わりに。

容赦なく、無闇さんはイシュメル女王に向かって口を開いた。