神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

話に聞いていた通りだった。

ようやく、長く、不安に満ちた航海が終わり。

キルディリア魔王国の港に辿り着いて、陸地に降り立って、ほっと一安心したのも束の間。

港の出口には、駅の改札みたいに、入国検問所が隣接していて。

港に辿り着いた人々は、真っ直ぐに入国検問所に向かった。

ここで入国審査を受けなければ、キルディリア魔王国に正式に入国したことにはならない。

私達はそのまま、休む間もなく入国検問所に向かった。

そして、そこで…。

入国審査のことを思い出していた、その時。

無闇さんの背後から、ふわり、と一人の女性が姿を現した。

無闇さんの持つ魔導書、『死火』の化身である、月読さんだ。

「ふわぁ…。よく寝た…」

「あ、月読さん…。…こんにちは」

「あ、シュニィだ。やっほー」

笑顔で手を振る月読さん。

「…あれ?ここ、何処?無闇くん、何処に来たの?」

その月読さんは、無闇さんと、私を交互に見つめ。

「あ、もしかしてここがキルディリアって国?」

…御名答です。

「はい。キルディリア魔王国に到着したんですよ」

「へぇー、そっか。やっと辿り…。…ん?」

…ん?

「…無闇くん、これ何?こんなの持ってたっけ?」

月読さんは、無闇さんが首から下げているネームホルダーを手に取った。

…やっぱり、そこに目が行きますよね。

もらったばかりの新品のネームホルダーの中には、オレンジ色の証明書が入っている。

ちなみに、私も同じものを持っている。

…これをもらう為に、私達は入国審査を受けたのだ。

「キルディリア魔王国では、魔導師はこの証明書を身に着けていなければならないそうだ」

と、無闇さんが説明した。

「キルディリア国籍の一般魔導師なら銀色、上級魔導師なら金色、海外から旅行に来た魔導師は、この通りオレンジ…。国籍に限らず、非魔導師なら青だそうだ」

魔導師なら、キルディリア国民か、旅行者かを証明書の色で区別するのに。

非魔導師は、自国の民だろうと他国の民だろうと関係なく、非魔導師という一括りで判断する…。

…何だか不公平ですよね。

無闇さんの説明に、月読さんはびっくりして。

「何それ?魔導師だろうと魔導師じゃなかろうと、無闇くんは無闇くんでしょ?」

「…本当に…。…その通りですよね」

月読さんの一言は、私の言いたいことを端的に表していた。

魔法が使えようと使えまいと、その人の価値は変わらない。

それなのに…。こんな証明書で…安っぽい紙切れ1枚で、人を区別しようとするなんて…。

「…」

私は、忌々しい「入国審査」のことを思い出した。

私と無闇さんは、入国審査の時に、魔法を使ってみせるよう、入国審査官に頼まれた。

そこで私は、不愉快に感じながらも、その場で魔法を使ってみせた。

すると、それを見た入国審査官は、にっこりと愛想の良い微笑みを浮かべ。

「はい、確かに確認しました。あなたは魔導師ですね」

と言って、別室で証明書の発行を待つように案内された。

私に続いて、無闇さんも同じように魔法を使ってみせ。

私達は複雑な思いのまま、待合室で待たされた。

ちなみに、その待合室では、お客様のような扱いだった。

「お飲み物はいかがですか。軽食はいかがですか」と至れり尽くせり。

何も知らなければ、私は感心していただろう。

海外からの旅行客を、こんなにも歓迎してくれるなんて、と。

だけど私は、素直に喜ぶことは出来なかった。