神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

ナツキ様が、このアーリヤット皇国の地に戻ってきたからには。

形勢は逆転…だな。

不在だった館の主が、こうして戻ってきたのだから。

疲れた様子だったナツキ様だが、イシュメル女王を前にすると。

キッと彼女を睨みつけ、

「キルディリア女王…イシュメル。よくも、引っ掻き回してくれたな」

「…」

「この国から…神聖アーリヤット皇国から出ていけ。さもなければ…。…今度は、こちらも容赦はしない」

そう凄むナツキ様は、さすがに王者の風格だった。

何処となく、フユリ様にも似ていると思った。

やはり兄妹なんだなと、こんな奇妙なところで感心してしまう。

対するイシュメル女王は、怯むどころか、射殺さんばかりにナツキ様を睨み返した。

その手は、怒りのあまりぶるぶると震えていた。

この人が、こんなに動揺しているのは初めて見た。

…しかし。

イシュメル女王が動揺を見せたのは、僅かな間だけだった。

「女王陛下…!一斉に、アーリヤット皇国全領土に、総攻撃を…!」

女王の側近である、シディ・サクメが、怒りのあまりそんなめちゃくちゃな提案をした。

総攻撃だって?

俺とシルナは青ざめた。

そんなことしたら、アーリヤット皇国が再起不能なまでに破壊され、

「…いいや、その必要はない」

「え?」

イシュメル女王は、シディ・サクメの提案を却下した。

呆然とするサクメ。

「ここが引き際じゃ。…キルディリア魔王国全軍に告ぐ。アーリヤット領から撤退し、本国に帰還する」

「女王陛下…!?ですが、ここで退けば、これまでの戦果が…!」

「二度は言わぬ」

「っ…」

有無を言わさぬ、鋭い口調で叱責され。

シディ・サクメは、思わず言葉を詰まらせた。

…さすが、キルディリア魔王国の女王様。

自分が今、置かれた立場というものは…しっかり心得ているようだ。

そして、それはナツキ様も同じ。

兵達を連れ、大人しく自分の国に帰ると言うなら、それを追いかけることも邪魔することもなかった。

「…小細工が功を奏したな、聖賢者殿」

去り際。

イシュメル女王は、シルナに向かって口を開いた。

「じゃが…次は、その手は食わぬぞ」

「…分かってるよ」

シルナは、険しい表情で頷いた。

…次。

次なんて、恐ろしくて考えたくないな。

「行くぞ、サクメよ」

「…畏まりました」

イシュメル女王とシディ・サクメ、以下イシュメル女王の配下達は。

俺達に背中を向け、キルディリア総督府の本部から出ていった。

…非常に、強引な手段ではあったが。

こうして、アーリヤット皇国とキルディリア魔王国の、強制的な「和解」が成立したのだ。

…一歩踏み外したら、谷の底に真っ逆さまの…危ない吊り橋を、ようやく渡り終えた気分だな。