神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

ーーーーー…その頃。

僕は、もう違和感に気づいていた。

僕が気づいてるってことは、当然、『八千歳』も気づいているだろう。

だけど、気づいていても…今の僕達に、この状況に対処することは難しい。

僕達は普段、僕が前衛を、『八千歳』が後衛を担当し。

『八千歳』が糸で、僕が自在に動き回れる即席の足場…フィールドを作り上げてくれ。

僕が、その足場を利用して、縦横無尽に動き回り。

敵を撹乱しつつ、隙を見つけ、小太刀でその首を狙う。

そういう戦法を主としている。

これで倒せない相手は、そんなにいなかった。

…それなのに。






「っ…」

これで、何度目になるだろうか。

僕は何度となく、『八千歳』と連携して、小太刀の一撃を『玉響』に撃ち込もうとしていた。

だけど、それがどうしても…届かない。

何度試みても、何度やっても、すんでのところで回避される。

それどころか…。

「ちっ…」

僕が着地しようとしている足場…『八千歳』の糸…を、遮るように。

『玉響』の毒の糸が、ピンポイントで足場をふさいでいた。

それを回避する為に、僕は無理な体勢で身体を捻る。

その度にそれが隙となり、その隙をついて、『玉響』の糸が飛んでくる。

すんでのところで、その攻撃を『八千歳』が防いでくれる。

さっきから、こんな一歩でも間違えたら即死するという、危険な攻防が続いている。

『八千歳』の反応が少しでも遅れたら、僕は『玉響』の毒糸に、呆気なく貫かれていただろう。

『八千歳』がミスをするとは思っていない。彼なら絶対に、攻撃を防いでくれる。

そう信じている。…信じている、けれど。

…さっきから感じる、この「危うさ」は何なんだろう?

「…相当な訓練を積んだようですが」

2対1 という、圧倒的に不利な状況のはずなのに。

『玉響』は少しも、焦ることなく…むしろ。

「言ったでしょう。…あなた達では、僕には勝てません」

「…」

それは虚勢でも、かと言って、絶対的な自信でもない。

『玉響』には、確信がある。

本来の彼は、…本当の『玉響』は持ち合わせていなかったはずの…勝利の確信が。

…何故?

僕だって、『八千歳』を信用している。僕と『八千歳』が組めば、勝てない相手なんて…そんなにいない。

一部例外を除く。

そして『玉響』は、その一部の例外だった。

更に…さっきから感じる、この違和感。

心がざわざわするような…見られたくないものを、丸裸にされているような…嫌な感触。

何処かで味わったことがある…。この感覚。

でも、一体何処で。

『八千歳』が共にいるはずなのに…。…この心許なさは、一体何なんだ?

「そろそろ、終わりにしましょう」

『玉響』は、僕に考える余裕を与えてくれなかった。

『玉響』が毒を纏わせた糸が、縦横無尽に宙を舞い。

複雑な軌道を描いて、逃げる隙を与えず、前衛に立っている僕に迫ってきた。

…不味いな、これは。避けなきゃ。

…だが。

身を屈め、躱そうとした僕の、目の前に。

その動きは読んでいたと言わんばかりに、追撃の糸が放たれた。

これは躱し切れない。当たる。

そう思ったが。

「『八千代』!」

「っ…!」

またしても、すんでのところで。

『八千歳』の糸が、『玉響』の糸を弾き飛ばし…僕の危機を救ってくれた。