神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

そして今、千載一遇の機会がやって来た。

マシュリには悪いけど、今だけは…部外者に邪魔されたくないんだよね。

それに、ナツキ皇王を連れ戻すっていう本来の役目も、忘れた訳じゃないし。

そっちはマシュリに任せて、こっちは自分のやるべきことをやるよ。

だから。

「行って、早く。ここは俺達で何とかするからさ」

「…。…分かった」

俺と『八千代』の覚悟を、しかと受け取ったマシュリは。

それ以上何も聞かず、すぐさま頷いてくれた。

いやー、マシュリも話が早くて助かるよね。

これが羽久せんせーとか学院長せんせーだったら、「お前らを置いていける訳ないだろ!」とか言って。

多分、こんなにすんなりとは行かなかったと思うんだよね。

頑固だからなー。羽久せんせー。

その点、マシュリは聞き分け良くて良いよ。

「ナツキ皇王を見つけたら、すぐ戻ってくる。それまで持ち堪えて」

「はいはい、任せて任せて」

「…気をつけて」

そう言って。

マシュリは人間の姿から、猫の姿に。

いろりの姿に『変化』して、立ち塞がろうとする『玉響』の真上を、

堂々と、勢いよく飛び越えていった。

おぉー、ダイナミック。

「っ、逃がすと思って…!」

だが、『玉響』とて、ただ黙って見ているだけではない。

すかさず糸魔法を射出して、マシュリを捕まえようとした。

おっと、それは駄目だ。

「させないよ」

俺は右手を前に出し、『玉響』が使っている糸魔法と、まったく同じ透明な糸を射出。

糸と糸が絡まり、威力を完全に相殺した。

「反動」が、ビリビリと腕に伝わってくる。

なかなか良い糸だ。…俺のと、よく似ている。

けれど、負けるつもりはないよ。

これでも、糸魔法の本家本元だからねー、俺は。

偽物に負けたんじゃ、本物の『玉響』に面目ない。

「…裏切り者共が」

『偽玉響』は、忌々しそうに呟いた。

あー…。…うん、まぁ。

それについては否定出来ないかな。…さすがに。

「一度ならぬ、二度までも『アメノミコト』を裏切るとは…。暗殺者のプライドもなくしたんですか」

「あはは。…くだらないこと言うね、君」

暗殺者の、プライド?

ある訳ないでしょ。最初から、そんなもの。

美化してんじゃないよ。

暗殺者の仕事は、人を殺すこと。そこに美学なんて要らない。

強いて言うなら、自分のしたことに責任を持つ。…そのくらいのプライドなら、あるかな。

だから、つまり。

『玉響』は、俺が殺したんだから。

今目の前にいる君は、今すぐ、速攻、消えてもらわなきゃ困るんだ。

「死者は大人しく、あの世に帰ってくれるかな」

「…あなた達では、僕には勝てません」

ふぅん?

『偽玉響』は、再び、両手に糸を絡ませた。

「状況分かってる?2対1だよ」

「そうですね。ですが…僕は、あなた達のような欠陥品ではありません」

「…」

「だから、いくらあなた達が束になろうと…今や、僕の敵ではない」

…あぁ、そう。

威勢が良くて、結構なことじゃないか。

じゃー、その言葉が伊達じゃないって…証明してもらおうかな。

「『八千代』、行くよ」

「うん」

『八千代』もまた、愛用の小太刀を構えた。

さぁ、因縁の決着をつけようか。