神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

ーーーーー…こちらは、キルディリア魔王国。

『八千代』とマシュリと共に、難なくファニレス王宮に侵入した僕は。

「こっちだよ。あと少し」

ナツキ皇王の匂いを辿り、王宮の地下へと先導してくれたマシュリに、ついていった。

いやー、ほんと便利だね。

俺もマシュリみたいな嗅覚が欲しかったよ。

暗殺にももってこいの能力だよね。

お陰で、探す手間が省ける。

この調子で、さっさと皇王を連れ出して、さっさとアーリヤット皇国に連れ帰っ、

「あ、待って。駄目だ」

「ん?」

先導していたマシュリが、唐突に足を止めた。

その刹那。

ひゅんっ、と音がして。

鞭のようにしなる透明な糸が、俺達の行く手を遮るように出現した。

おっと、危ない。

うっかり触れてしまうと、バターみたいに切断されてしまうところだった。

「…こんなところまで、遥々ご苦労ですね」

「…」

俺達の前に、黒装束を着た人物がゆっくりと現れた。

…やっと来たか。

…待ってたよ。

「…『玉響』…」

「…ジャマ王国で会って以来ですね、『八千歳』さん。…それに、『八千代』さんも」

『アメノミコト』の暗殺者、『玉響』。

俺が殺した…俺と『八千代』の、かつての同僚である。

…いや、それは違ったんだっけ。

今目の前にいる『玉響』は、本物の…俺が知ってる『玉響』じゃない。

『玉響』とまったく同じ見た目をしているけれど、中身は別物。

『アメノミコト』が作った…精巧な『玉響』のクローンに過ぎない。

つまり、偽物ってことだね。

…ちょーど良かった。

この『偽玉響』が、キルディリア魔王国にいるって聞いた時から。

俺も『八千代』も、実は、ナツキ皇王のこととか、アーリヤット皇国のこととか、本当はどーでも良かったんだ。

「…どうやら手練れのようだけど、でも3対1なら負ける道理はないね」

マシュリが、戦闘態勢に入った。

やる気になってくれたようで、どーも。

…でも、その必要はない。

「マシュリ、先に行ってて」

「…え?」 

てっきり、一緒に戦うと思っていたのだろう。

マシュリは驚いて、こちらを振り向いた。

「ナツキ皇王を探して。ここは俺と『八千代』で相手をするからさ」

「…良いの?」

「へぇー?まさか、俺と『八千代』のこと舐めてる?」

いくら、相手が『アメノミコト』の自信作クローンだとしても。

俺と『八千代』が手を組んで、勝てない相手は…。

…まー、そんなにはいないかな?

「僕達の侵入に気付かれて、ナツキを隠されたら厄介だから。早く連れてきて」

『八千代』がそれっぽい理屈をつけて、マシュリを説得した。

よく言うよねー、『八千代』もさ。

『八千代』だって本当は、ナツキ皇王のことなんてどうでも良い癖に。

分かってるよ。これでも、元暗殺者同士だからね。

多分ナジュせんせーは、分かってて、俺達とマシュリをキルディリア魔王国に送ってくれたんだ。

俺達が…俺達自身の手で、『偽玉響』と決着をつけたがってることを察して。

ほんと、ナジュせんせーには頭が上がらないよ。