神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

そんな取引に応じるか、と。

はねつけてやりたいところだったが。

「…」

俺は咄嗟に返事が出来ず、シルナの顔を見つめた。

アーリヤット皇国の人々には申し訳ないが、どうすべきか、俺は迷った。

なんと冷たい人間だろうか。俺は。

ルーデュニア聖王国の安全が保証されるなら、アーリヤット皇国のことは見捨てても良いんじゃないか、と。

自分でも意識しないうちに、そう思ってしまったのだ。

自分の残酷さに、思わずぞっとした。

しかし、シルナはそんな俺の手を、ぎゅっと握り締めた。

「…シルナ?」

「大丈夫だよ。…君は何も悪くない」

俺の心の内を察したかのように、シルナはそう言った。

そして、改めてイシュメル女王に向き直った。

「…イシュメル女王」

「なんじゃ」

「あなたのことを、信じてあげたいのは山々なんだ。だけど…悪いけど、あなたに何を言われても、信用出来ない」

「…」

キルディリアの女王相手に、「信用出来ない」とは。

最初からずっと険しかったシディ・サクメの顔に、更に皺が寄った。

「どういう意味じゃ」

「信用出来ない…と言うより、何を考えているか分からない、と言った方が正しいかな。あなたは、私と羽久をキルディリア魔王国に幽閉しようとした。『アメノミコト』と組んでナツキ様を捕らえて、アーリヤット皇国を占領した。挙げ句、ベリクリーデちゃんをキルディリア魔王国に攫って連れていった」

出るわ出るわ。

イシュメル女王の、これまでの所業が。

…多いな。

「あなたは、アーリヤット人にとっても、私達にとっても危険な存在だ。何を考えてるか分からない。あなたが善人なのか悪人なのかも、私には分からないよ」

「…」

失礼なことを言われているはずなのに。

イシュメル女王は扇で口元を隠したまま、何も答えなかった。

シディ・サクメは不機嫌そうだったが。

主君を悪く言われているのだから、当然と言えば当然である。

「あなたの目的は何?…一体何がしたいの?」

「…さて、なんじゃろうな」

イシュメル女王は答えるどころか、微笑んで、はぐらかしてみせた。

「おぬしに答える義理はないな。腹黒さに関しては、おぬしもわらわも、そう変わらぬわ」

「…そうかもしれないね」

「じゃが、交渉な応じぬなら、仕方がない。わらわは、おぬしらを…」

…と、イシュメル女王が言いかけた、

その時。

「女王陛下っ!」

「…なんじゃ」

客室の中に、血相を変えたブラマンジュが飛び込んできた。

「アーリヤット皇国の…ナツキ皇王が…!」



それは、俺達にとって。

この下らない争いを終わらせる為の、朗報だった。