神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

救護所、兼、聖魔騎士団派遣隊の陣地となっている、国境付近の街に向かうと。

「天音!いるか?」

「あっ…。ジュリスさん、良かった。無事だったんだね」

「そっちもな」

テントを張って作った、即席の救護所…野戦病院には。

連れてこられた怪我人が、並べたベッドの上に寝かされていた。

その怪我人達を一人ずつ、天音が回復魔法をかけて治療しているところだった。

野戦病院と言うと、治療が間に合わず、ベッドや医薬品が足りず。

収容しきれない患者達が溢れ、苦悶の呻きや叫び声が絶えず聞こえる、まさに戦場の地獄…。

…という光景を、思い浮かべるかもしれないが。

「大丈夫?身体、痛くないですか?」

「あ、あぁ…。見違えるように痛みが引いたよ」

「良かったです」

天音は、ベッドに寝かされている怪我人一人一人に声をかけ、様子を伺っていた。

どうやら、まだ余裕が見えるな。

テントに収容されている患者の数も、思っていたほど多くない。

これなら、俺が今連れてきた怪我人達も、すぐに診(み)てもらえそうだ。

「天音、悪いんだが怪我人だ。診てくれるか」

「あ、うん分かった。何処に?」

「こっちだ」

「すぐに診るね」

天音は、俺が連れてきた怪我人達に駆け寄った。

その間、俺は手伝えることがないかと、テントの中を見渡した。

天音ほどの腕前じゃないが、俺も一応、回復魔法は使えるし。

怪我してる人がいたら、手伝えることがあるかと思ったのだが…。

…特に、今すぐ治療が必要そうな人は見当たらない。

これじゃ拍子抜けだぞ…と、思っていた矢先。

「う、うぅ…」

「…!大丈夫か?」

呻きをあげている患者を見つけ、俺は慌てて駆け寄った。

何処かが痛むのか、怪我をしているのかと思って、すぐに確認したが。

…何処にも包帯を巻いている箇所はなかったし、出血もない。

どうしたんだ?一体何処が痛むのだろう?

「おい、大丈夫か。しっかりし、」

「ジュリス、この人。ぴよぴよ」

「は?」

ベリクリーデが、呻き声をあげる患者を指差して言った。

「ぴよぴよだよ」

「ぴ…ぴよぴよって?」

「頭の上にひよこ。ぴよぴよ〜」

…ごめん。ちょっと意味が分からない。

ベリクリーデの遊びに付き合ってる場合じゃないから、今は無視だ。無視。

「天音、来てくれ!この人…、」

「とう、ふ…」

「え?」

呻き声をあげていた患者が、苦しそうに何かを呟いた。

と…豆腐?

「とうふ…豆腐が…!」

「な、何だ?豆腐?」

走馬灯か。走馬灯が見えてるのか?

走馬灯に豆腐が出てくるって、あんたどんな人生を送ってきたんだ?

豆腐職人?

「頭の上に…大量の…豆腐が…!」

…!?

患者は腕を伸ばし、水の中を泳ぐように何度か振り回していた。

な、何なんだ一体。これは何事なんだ。

「…ジュリスさん…」

そこに、怪我人の治療に当たっていた天音が戻ってきた。

「あ、天音…。この人、一体どうしたんだ?」

「う、うん…。驚くよね、最初は…」

そうだな。

これは、もしかして…アレか。

「戦争神経症って奴か?恐怖のあまり、幻覚が見えて…」

「いや、恐怖じゃなくて…。本当に幻覚が見えてるんだ。クュルナさんの幻覚魔法で」

…は?