神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

ーーーーー…一方。こちらは。

僕と令月、すぐりの三人の現在地は。

キルディリア魔王国の、上空である。

「そろそろ降下するよ」

「うん、お願い」

「いやー。船なんかよりずっと速いね。便利だよねー」

それはどうも。

現在僕は、神竜…バハムート族の姿に『変化』し。

通称マシュリタクシーとなって、令月、すぐりの二人を背中に乗せ。

ここ、キルディリア魔王国本国まで運んできた次第である。

このくらいは、僕にとっては何でもないことである。

船で潜入するより、ずっと時間を短縮出来るからね。

キルディリア魔王国上空に辿り着いた僕は、ヘリコプターみたいに、その場に降下。

ある程度降下して、雲の隙間から、地上が見える頃になると。

「キルディリア国民に姿を見られると困るから、そろそろ『変化』を解くよ。良い?」

「どうぞー」

「いつでも良いよ」

今回の「乗客」は、話が早くて助かる。

これがシルナ学院長だったら、「無理無理無理!怖い怖い怖い!」って、叫びまくってただろうから。

いつでも良いと言われたから、遠慮なく。

僕は、神竜バハムートの姿から、いつものマシュリの姿に『変化』し直した。

途端に、竜の背中に乗っていた令月とすぐりは、足場をなくして、地上に真っ逆さま。

しかし、この二人はまったく慌てることなく。

「よいしょ、っと」

真っ逆さまに落下しながら、すぐりは両手から糸を射出。

その糸で、令月をぐるぐる巻きにして、降下の速度を大幅に減少させ。

自身もまた、編み上げた糸をパラシュート代わりにして、ゆっくりと降下した。

そして、何事もなかったように、地上に降り立った。

ここまで、お互いに打ち合わせした訳でも、何かしらの意思疎通があった訳でもない。

それなのに、二人共まったく慌てることも、狼狽えることも、戸惑うこともなく。

すべてが流れ作業のように、見事二人揃って、無傷で美しく着地してみせた。

凄いな。

僕は神竜族だから、パラシュートなしで降下しようが、地面に叩きつけられようが、全然平気だけど。

ただの人間に過ぎないこの二人にとっては、一歩間違えば、地面に叩きつけられて即死していただろうに。

そういう、自分の命に対する危機感とか、恐怖心と言ったものは、まるで感じられない。

それどころか。

「…二人共、怖くなかったの?平気?」

「えー?何が?」

すぐりは、令月をぐるぐる巻きにしていた糸をするすると解きながら。

「別に、何ともなかったけど」

令月の方も、平然と、自分の持ち物を整理し直していた。

…成程。元暗殺者というのは伊達ではないらしい。

見上げた胆力である。

この二人なら、何も心配はなさそうだ。

「すぐに、ファニレス王宮に向かおう」

「場所、分かる?」

「うん。さっき空の上から、クリスタルみたいな大きな城が見えたから」

多分、あれが話に聞いていたファニレス王宮だろう。

見た目はクリスタルのお城だけど、実はハリボテなんだそうだ。

「あぁ、成程。竜の目って便利だねー。凄く遠くまで見えるんだ」

「羨ましいね」

どうも。

自分の力を好意的に感じたことはないが、それでも、頼りにされるのは悪くない気分だよ。