神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

俺は、頭の中をフル回転させた。

勿論、本当のことを言う訳にはいかない。それは確かである。

何とかして、この場を切り抜け…。…いや。

むしろ、この状況を逆手に取るべきなのでは?

と、考えていると。

「え、え、えーと…。わ、私は…」

しどろもどろのシルナ。

「何をしに来たんですか?」

「え、えっと…。そ、その…あっ、そうだ。ちょ、チョコの伝道師…!」

…は?

人間、本気で焦ると、自分でも予想だにしていない言葉が出てくるものである。

「チョコレートの美味しさを、アーリヤット皇国の皆にも分かってもら、ふぎゃっ!」

俺は、シルナの足の指を踏みつけて黙らせた。

咄嗟に出てきた言い訳の質が低過ぎる。

「…?チョコ…??」

見ろ。ブラマンジュは口をぽかんと開けている。

そりゃそんな反応にもなる。

ここは、俺が何とか。

唇をぺろりと舐めてから、俺は今考えた嘘をでっち上げた。

「俺達は、アーリヤット皇国の辺境に住んでた、アーリヤット人の魔導師なんだが…」

まさか、「ルーデュニア聖王国から来た魔導師です」などと言えるはずもなく。

「都市部で反乱が起きてると聞いて、居ても立ってもいられなくなって…キルディリア総督府の力になれないかと思って、ここまできたんだ」

あくまで、「キルディリア総督府の力になる為」を強調する。

でなきゃ、俺達も反乱の首謀者だと間違われてしまうからな。

そして、敢えて「辺境から来た」とアピールすることで、外出禁止令を知らなかった風を装う。

我ながら、非常に姑息な嘘だが。

「…!キルディリアの力になる為に…。そうだったんですね」

ブラマンジュは目を見開き、顔を綻ばせてそう言った。

良かった。信じてくれたようだ。

結構単純なんだな。

と言うかキルディリア人は根本的に、「魔導師=信用出来る人」だと思い込んでいる節が強い。

魔導師と非魔導師を差別し過ぎた弊害だな。

魔導師にだって悪人はいるし、非魔導師にだって善人はいるぞ。

まぁ、今回ばかりは、ブラマンジュが単純で助かったが。

「キルディリア国軍の手助けをしたいんだ。その…総督府に案内してくれないか?」

「分かりました。すぐにご案内します」

「えっ…。は、羽久…?」

シルナは、俺の意図を計り兼ねて、驚いた顔でこちらを見た。

もうちょっと黙っててくれないか、シルナ。

俺としても、今、結構危険な賭けに出てるんだ。

「えぇと…その、一つ、聞いても良いか?」

俺は、おずおずとブラマンジュに声をかけた。

「?何ですか?」

「総督府には…キルディリア魔王国軍が…イシュメル女王…陛下がいらっしゃるのか?」

俺の、この質問で。

シルナはようやく、俺の意図を察して、ハッとしていた。

そう。

ブラマンジュに取り入って、イシュメル女王のもとに連れて行ってもらおうという作戦である。

咄嗟の機転のつもりだが、これが上手く行けば。

俺とシルナは、最短で、イシュメル女王との交渉に乗り出せる。

「…女王陛下に…ですか?でも、何故女王陛下に…?」

と、ブラマンジュ。

当然の疑問である。

何とか言い訳を…何とか切り抜けなければ。

「俺達は…アーリヤット人だけど、出来れば、キルディリア魔王国軍に加えてもらおうと思って…」

「…」

「魔導師として…。その、魔導師の国に尽くしたいと思ってるんだ。その為に…イシュメル女王陛下に謁見したい」

…それっぽい嘘をつきながら。

実は、背中に冷や汗をかいているのは内緒である。