神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

これが、皆さん全員への注意事項。

この後は、各人への作戦指示になる。

「羽久さん、学院長。あなた達は、キルディリア魔王国軍の総帥を…イシュメル女王を探してください」

キルディリア魔王国軍の本隊が来ているということは、当然、イシュメル女王も軍に同行しているはずだ。

羽久さんと学院長の役目は、争いを掻い潜り、キルディリア魔王国軍を蹴散らして。

本陣で指揮を執っているであろう、イシュメル女王に謁見し。

最後の平和交渉を…アーリヤット皇国から手を引くように、説得すること。

これが上手く行けば、一番、穏便に事が済むんですけどね。

「戦争が長期化するか、それとも呆気なく幕を閉じるかは、お二人の説得にかかってるので。頑張ってください」

「う、うん…。頑張る…」

自信なさそうに頷く学院長。

「方法は問わないので、泣き落としでも、脅迫でも、お好きなようにどうぞ」

「わ、分かった」

頷く学院長の、心の中をこっそり覗いてみると。

…ふむ、成程。

「学院長。一生懸命考えてるところ、悪いんですが」

「ふぇっ?」

「『大人気のチョコケーキをあげるから帰ってください』じゃ、イシュメル女王は帰ってくれないと思いますよ」

「えぇぇぇ」

「そんな…」みたいな顔で固まる学院長。

「お前…」

そんな馬鹿なこと考えてたのか、とジト目で睨む羽久さん。

まぁ、良いですよ。チョコケーキでも何でも。

キルディリア魔王国軍が手を引いてくれるなら、この際手段は問いません。

で、次に。

「天音さん、あなたは後方で、負傷者の治療をお願いします」

「うん、分かった」

「怪我人がいたら、アーリヤット人だろうとキルディリア人だろうと、関係なく治療してください。医療現場は中立地帯です」

「うん」

天音さんは、躊躇いなく了承した。

いちいち頼まなくても、天音さんもハナから、そのつもりのようですね。

まぁ、天音さんは生来、気が優しいので。

目の前で血を流している人がいたら、相手が敵だろうと味方だろうと、見過ごすことは出来ないでしょう。

さて、次は。

「令月さん、すぐりさん、マシュリさんの三人は、アーリヤット皇国に着いたらただちに、そこからキルディリア魔王国に向かってください」

「うん」

「りょーかい」

「分かった」

令月さん、すぐりさん、マシュリさんの順で返事をした。

「あなた方の任務は、キルディリア魔王国に囚われているナツキ様を救出し、アーリヤット皇国に帰還させることです。イシュメル女王との平和交渉のキーパーソンにもなる方なので、出来るだけ迅速に連れ帰ってきてください」

「任せて。いざとなったら、僕がバハムートの姿に『変化』して、運んでくるから」

と、心強いマシュリさん。

成程、また例の…所謂、「マシュリタクシー」ですね。

あれは便利ですよね。…乗り心地は最悪ですが。

ナツキ皇王奪還作戦は、…マシュリさんに任せておけば、大丈夫だと思う。

…一方。

「…」

「…」

令月さんとすぐりさんの心境は、穏やかではなかった。

この二人の目的は…ナツキ皇王、ではなく。

キルディリア魔王国、ファニレス王宮にいるという、『アメノミコト』の暗殺者。

令月さんとすぐりさん、二人にとって…因縁のある相手。

「…向こうで何が起きようと、僕はあなた方を信じています」

「不死身先生…」

「ナジュせんせー…」

「だから、ちゃんと無事に帰ってきてください」

僕が指揮官としてこの二人に望んでいるのは、この一点だけだ。