神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

指揮官…。…指揮官ってことは。

隊のリーダーとして、作戦を考えたり、実際に命令を下す責任者になる、ってことか?

…ナジュが?

「…シルナじゃないのか?」

これまでずっと、そういう役割はシルナが担ってきたはずだ。

ほら、この場で一番…年上だし?

学院長だしな。…これでも。

それなのに、今回はナジュに指揮官の座を譲ると。

一体どういう風の吹き回し…。

…あ、そうか。

「そうか…。シルナもいよいよ、自らの老いを自覚してきたんだな…。それで、若い者に譲ろうと、」

「羽久が私に失礼なことを言ってる!違うよ、そういう理由じゃないから!」

え、そうなのか?

俺はてっきり…。

「私達は、戦争の経験なんてろくにないけど…。その、ナジュ君は生まれ故郷で、ずっとそういう経験を積んできたから…」

シルナは言葉を選びながら、そう説明した。

…あ、そういうことか…。

「以前の…イーニシュフェルト魔導学院攻防戦の時と同じように、ナジュ君に任せるのが適任じゃないかと思って…」

成程。老いを自覚したからではなかったんだな。

それは失礼。

でも、確かに…このメンバーの中では、ナジュが一番…。

「本物の戦争」というものを、よく知っている。

令月とすぐりも、子供だてらに、たくさんの修羅場を乗り越えてきた経験があるが。

それでも二人は、暗殺者として、暗殺の実績を積んできたのであって。

「戦争」の経験は、一度もない。

かく言う俺も…。戦争の経験は、一度もないな。

まったく、温室育ちの自分が嫌になる。

だったら…やはりここは、「本職」に任せるのが一番、信頼出来るのではないか。

「…分かった、そういうことなら…。ナジュ、頼めるか」

「えぇ、良いですよ。何でも引き受けます」

快諾である。

引き受けてくれるのは有り難いが…。少しは躊躇えよ。

「それじゃあ、この度の対キルディリア魔王国戦では、僕が戦闘指揮官ってことで。よろしくお願いします」

あぁ、よろしく。…頼りにしてるよ。

頼りにしてる…けども。

…。

「…良いか、ナジュ。お前、自分が指揮官だからって」

「はい?」

「自分に爆弾をつけて特攻しようとか、自爆攻撃をしようとか思ってないよな?」

「凄いですね、羽久さん。いつから読心魔法が使えるようになったんですか?」

ほら、見ろ。言わんこっちゃない。

一応、釘を刺しておいて良かった。

読心魔法じゃねーよ。お前ならやりかねないと思ったよだけだ。

「絶対に駄目だからな。良いか、絶対に駄目だぞ」

「えー…。でも、僕が指揮官なのに」

「そんな捨て身作戦を立案する指揮官なら、その場で解任だ」

「…横暴…」

うるせぇ。

絶対従わないからな。当たり前だが。

「もー…。分かってますって。捨て身作戦はやりません」

「…本当だな?」

「大丈夫ですよ、約束しますから…。ちょっと、少し時間をもらって良いですか、学院長」

「え?う、うん…」

「具体的な作戦を考えてきます。決まったら報告しますね」

と、言って。

ナジュは一人、学院長室を出ていった。

…。

その背中を見送りながら。

「…大丈夫かな?ナジュ君…」

ちょっと心配そうなシルナ。

「さぁ…。大丈夫…だとは思うけど」

何考えてるか分からないからな、あいつ…。

「…天音、悪いんだが、後でナジュの様子を見に行ってくれるか」

「うん、分かってる」

天音に頼むと、天音はすぐに頷いてくれた。

ありがとう。

…それじゃ、あとは…ナジュが作戦を立案するのを、待つだけだな。