神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

…結局。

フユリ様は、これから公務があるからと、謁見を終えた。

別れ際、フユリ様は笑顔を見せ、「私のことは心配なさらなくて大丈夫です」と言った。

…だけど、それが虚勢であることは、俺の目にも、シルナの目にも明らかだった。




「フユリ様…。辛そうだったな」

「…そうだね…」

王宮からの帰り道。

俺とシルナは、とぼとぼと歩きながら話をした。

「イシュメル女王も…。…何考えてるんだろうな…」

これ以上の戦争行為は、最早侵略以外の何物でもない。

本気なのか?

本気で…アーリヤット皇国を攻め滅ぼそうと…。

もし、本当にそうなったらと、俺は想像してみた。

アーリヤット皇国の地図が塗り替えられて、第二のキルディリア魔王国になって。

そうすればキルディリア魔王国は、大陸でも一二を争う大国に成長するだろう。

かつてないほどの、超魔導師国家になるはすだ。

…すると、どうなるか?

アーリヤット皇国を吸収したイシュメル女王が、次にすることは何だろう?

…もしかして。

フユリ様は、敢えて「そのこと」は口にしなかったが。

本当に、アーリヤット皇国がキルディリア魔王国の領土になってしまったら。

イシュメル女王が、更なる領土の拡大を目論んでいるとしたら。

「アーリヤット皇国の次は…。今度は…」

「…そうだね。改めて、ルーデュニア聖王国に再度、攻め込んでくる可能性もある」

と、シルナははっきりと言った。

…。

…今度は、前回の時のような「生温い」攻撃では済まないだろうな。

最早、俺達の手には負えない規模の…大きな戦争になる。

「…っ…」

思わず、俺は身を震わせた。

考えたくなかった。そんなことは。

俺の…俺と、シルナの…イーニシュフェルト魔導学院の、平和な日常が脅かされるなんて…そんなこと…。

俺には…とても耐えられない。

すると。

「…大丈夫だよ、羽久」

情けなくも身を竦ませる俺の手を、シルナはそっと取った。

「君のことは、必ず私が守るから。君のことも…仲間達も、そして私達の学院も」

「シルナ…」

「だから大丈夫。安心して。私達の大事な家を、絶対に、キルディリア魔王国に奪わせたりしないから」

…不思議だな。

根拠がある訳じゃないのに、シルナがそう言うと、安心感が湧いてくる、

…いや、この安心感…シルナから伝わってくる、この頼もしい優しさは。

俺じゃなくて、「前の」俺が…そう感じているのかもしれないな。

シルナは、覚悟を決めている。

だったら、俺も覚悟を決めるよ。

愛するものを、守り抜く覚悟を。

「…分かった」

俺はシルナの手を、ぎゅっと握り返した。

俺だって、大切なものを奪われたくないからな。

「絶対に守ろう。この国は…イーニシュフェルト魔導学院は」

必要ならば、この戦争を止める為の手立てを…。

「うん。…そこで羽久。私、一つ思いついたことがあるんだけど」

「…思いついたこと?」

「ちょっと、聖魔騎士団魔導隊舎に寄っても良いかな?」

「え?別に…良いけど」

…聖魔騎士団?

そこに、一体何の用だ?