神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

これが、俺の考えた「ナツキ様の生存をアーリヤット皇国の民に伝える方法」だった。

ナツキ様生存を知らせる、大量のビラを(手書きで)用意して。

それを、ルイーシュの空間魔法で転移させ。

アーリヤット領の上空から、はらはらと、雨のように降らせる。

すると、街を歩いていた人は勿論、家の中に引きこもっていた人々も。

窓の外に、はらはら、ひらひらと落ちる白い紙切れを、何事かと思って手に取り、あるいは拾い上げる。

そしてそこには、アーリヤット皇王のナツキ様が生きている、という情報が記されている。

こうすれば、アーリヤット皇国領にいる、ほぼすべての国民達に、真実が伝わる。

あまりにも古典的で、あまりにも馬鹿馬鹿しい方法。

だけど…一番確実に、真実を知らせる手段だ。

やってやったぜ。

見たか。俺の意地。

「なっ…!なんということを…!」

ブラマンジュちゃんは窓に駆け寄り、空から舞い落ちる大量のビラを、唖然として見つめていた。

総督府の建物の外では、早速、道を歩いていた人々が。

舞い落ちてきたビラを、次々に手に取っていた。

それを見て、エリトール君は窓から身を乗り出して、外の人々に向かって叫んだ。血相を変えて。

「待て、それを拾うな。読むな!」

…気持ちは分かるけど。

残念ながら、それは無理な相談ってもんだ。

空からビラが舞い落ちてきたら、誰だって拾うだろうし、誰だって読むだろうよ。

それは自然な行為であって、止めようって考え自体が間違ってる。

「こ、こんな…こんなことしても無駄だ。誰も信じるはずが…!」

「…それはどうですかね」

エリトール君の訴えを、ルイーシュがばっさりと切り捨てた。

「え…?」

「真実かどうかなんて、彼らにとっては重要ではないんです。燻っている怒りを、不満を、爆発させるきっかけになるなら、それで」

…その通りだ。

俺は『ナツキ様は生きている』とビラに書いた。

だけど、その根拠はまったく記していない。

ナツキ様が生きているのは確かだが、それをアーリヤット皇国民達に証明する術はないのだ。

だから、こんなビラが配られても。

「はったりだ」、「根拠がない」と吐き捨てられたら、それでおしまい。

…でも、情報の真偽を示すことは、それほど重要ではない。

ただ、多くのアーリヤット皇国民の間に。

『ナツキ様が生きているらしい』という噂を、流布させるだけで良い。

そうすれば、そんな不確かな情報でも、立ち上がるきっかけになる。

キルディリア魔王国が、アーリヤット領を征服してからというもの。

国民達がこれまで溜め込んでいた、不満や怒りといった感情を爆発させる…そのきっかけに。

そしてきっかけさえあれば、アーリヤット民達は決起する。

キルディリアの支配になど屈してたまるものか。

この噂が本当なら、ナツキ様を返せ。

我らの土地を、国を返せ…と。

魔導師とか、非魔導師とか関係なく。

自分達の祖国を、取り戻す為に。