神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

完全に、これはイシュメル女王の仕組んだ罠だ。

ハナからあの女王は、俺とルイーシュを信用してなどいなかったのだ。

だからこそ、アーリヤット領の統治だとか、体(てい)の良いことを言って。

俺達を、アーリヤット領に追いやり。

その隙に、ルーデュニア聖王国に手を伸ばし。

ベリクリーデちゃんを攫って、キルディリア魔王国に連れてきた。

俺達は邪魔だから、アーリヤット領に追放されただけなのだ。

そりゃあな、「キルディリアに亡命したいんです〜」って嘘をついて潜入したのは、俺だ。

俺達は最初から、イシュメル女王を騙していた。

だから、今度はイシュメル女王が俺達を騙しても、文句は言えないんだろうよ。

お互い様、って奴だからな。

俺とルイーシュが、イシュメル女王を信用していなかったように。

イシュメル女王の方も、俺とルイーシュを信用なんてしていなかった。

ハナから俺達は、そういう関係だったのだ。

だからって、何をしても許される訳じゃないからな?

ましてや、無関係のベリクリーデちゃんを、勝手に連れ去るなんて言語道断。

何のつもりで、何の為にベリクリーデちゃんを連れてったのかは知らないが。

理由なんてどうでも良い。

ベリクリーデちゃんに手を出すという、イシュメル女王の「ルール違反」に対抗する為に。

俺はもう、形振りかまってる余裕はなかった。

もう怒ったからな。もう絶対、あの女狐の思い通りにはさせない。

ナツキ様の生存をアーリヤット皇国民に伝える為に、なんか良い方法ないかなぁ、なんて。

今朝方まで、呑気に考えていたけれど。

もう考えない。やるべきことは一つだ。

スマートじゃなくて良い。みっともなくても馬鹿馬鹿しくても良い。

一番分かりやすくて、一番手っ取り早い方法を使う。

その為に、俺の…両方の手の甲を犠牲にするくらい、なんだって言うんだ?

「うぬぐぐぐ…」

「あと20枚くらいですよ。ラストスパートです」

「何のこれしきぃぃぃ…!」

クロティルダが、ベリクリーデちゃん拉致の情報を教えてくれてからというもの。

瞬間沸騰した俺はすぐさま、「紙買ってきて」とクロティルダに頼んだ。

なんか、勢い余って、あろうことか天使をパシリにしたような気がするが。

多分気の所為だな。うん。

クロッティが調達してくれた、大量の用紙に。

俺はボールペンを手に、手書きで、ひたすら、でっかい字で、紙が尽きるまで。

一つの文言を、延々と書き殴っていた。

最初の頃は、人様に見せるものだから、丁寧に書こうと心がけていたが。

10枚くらい書いたところで、そんな丁寧な作業してたら、いつまでたっても終わらないと思って。

すぐに普段通りの字に戻って、それから段々、腕が疲れてきて、次第に乱雑な字になって。

今はもう…ミミズがのたくったみたいな字になってる。

俺、元々字、綺麗な方じゃないんだよ。

習字の時間とか、大っ嫌いだったね。

良いんだよ。読めれば。

これでも、甲骨文字とかよりは読みやすいだろ。多分。

…すると。

「キュレム様、ルイーシュ様。大丈夫ですか?」

部屋の扉の向こうから、ノックの音と、ブラマンジュちゃんが呼びかける声が聞こえてきた。