神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

俺は背中にベリクリーデを隠したまま、立ち上がった。

「ジュリス…」

「…大丈夫だ」

心配そうな声で俺を呼ぶベリクリーデに、俺はそう返した。

さっきから、クロティルダに守られっぱなしだが。

俺だって、ただ守られるだけではないぞ。

この程度の修羅場、これまで何度となく乗り越えてきた。

だから、今回も乗り越えてみせる。

「…俺に力を貸せ、『魔剣ティルフィング』」

俺は魔剣を召喚し、携えた。

力を出し惜しみするつもりはない。

ましてや今は、後ろにベリクリーデがいるのだから。

指一本、触れさせてなるものか。

出来れば、交戦は避けたかった。

ベリクリーデを見つけたら、可及的速やかに、こっそりと連れ帰るつもりだった。

ここは敵地のど真ん中で、しかも、イシュメル女王の根城なのだ。

長居すればするほど、状況は俺達に不利になっていく。

だから…見つかる前に、さっさとずらかりたかったのだが。

残念ながら、そうは行かなかったようだ。

「…」

黒装束の糸魔法使いは、無言で、両手に糸を絡ませ。

じっと、俺を見つめていた。

その眼差しに、何故か、俺はぞっとした。

思わず、息を呑んでしまった。

…何だ?この嫌な感じ。

殺気を向けられている訳じゃない。

今更、殺気を向けられたくらいじゃ、俺はビビらない。だから殺気じゃない。

そうじゃなくて、まるで…心の中を、丸裸にされているような。

「…それは当たりですよ。ジュリス・レティーナ」

「えっ」

黒装束の男が、ポツリと呟くように言った。

「僕は、新たな力を得ました…。もう誰にも、決して負けない…劣らない力を…」

「…お前、何を…」

「だから、あなた達に勝ち目はありません」

…どういう意味だ?

一体何を…でも、どうして…。

「…ジュリス」

「え」

ベリクリーデが、いつの間にか。

俺の手を、両手でぎゅっと握っていた。

「大丈夫だよ」

「…ベリクリーデ…」

今度は、ベリクリーデが俺と同じことを言った。

ベリクリーデの言うことだから、相変わらず、何の根拠もなく。

多分お得意の、いつもの「勘」なのだろうが。

それでも、ベリクリーデには確信があった。

絶対に大丈夫、という。

ベリクリーデの強い意志、思いが、その両手から伝わってきた。

…そうか。…そうだな。

お前の言う通りだ。

「…分かった」

お前がそう信じるなら、俺も信じるよ。

動揺を抑え、俺は冷静に、剣を構え直した。

狼狽えれば、ますます相手の思う壺だ。

「…もう動揺を抑えましたか。…さすがですね」

お褒めに預かりどうも。

「お前、一体何者だ?『アメノミコト』の暗殺者が、何故ここにいる?」

ジャマ王国の暗殺者組織である『アメノミコト』の暗殺者が。

白昼堂々、このキルディリア魔王国のファニレス王宮で、我が物顔して現れるなんて。

「…まさか…」

俺の中に、恐ろしい考えが浮かんだ。