神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

「私、パピッコ食べながら良い子にしてたんだよ」

ベリクリーデは嬉しそうに、食べかけのパピッコ(いちご味)を掲げてみせた。

あぁ、そう。

「なんで、こんな時にパピッコなんて…」

「だって、何か必要なものがあったら、何でも言ってくれって言われたから」

それで、「じゃあパピッコください」ってリクエストしたのか?

調達してくれたのが誰かは知らないが、パピッコを頼まれて、さぞやびっくりしただろうな。

食ってる場合じゃないだろ。パピッコ。

「もう1本あるんだよ。はい、ジュリスにあげる」

「いや、要らないから」

「え?要らないの?」

なんで、そんなびっくりしてんの?

まさか断られるとは思ってなかった、みたいな顔で。

「私のパピッコが食べられないって言うの…!?」

「何処で覚えたんだ。そんな台詞…」

お前が作ったものではないだろ。

「そっか…。…じゃあ、クロティルダにあげる」

「喜んでもらおう」

喜んでもらうのかよ。

お前まで。今そんなことしてる場合じゃないだろって。

「…で、これは何をするものなんだ?」

パピッコを知らない天使、クロティルダ。

天界には…どうやら、パピッコは広まってないようだな。

そりゃそうだ。

「食べるものなんだよ。こうして、吸い口を外して…もみもみしながら、ここをちゅーって吸うの」

「吸引するタイプのアイスクリームか…。ふむ、これは斬新なアイデアだ」

「でしょ?美味しいねー」

…二人して、パピッコいちご味をちゅーちゅーしてるところ悪いが。

「…そんなことしてる場合かよ」

呑気にも程がある。ふざけんなよ。

「お前ら!緊張感ってものはないのか?」

「きんちょーかん?」

…ないみたいだな。

駄目だ。俺とクロティルダに再会したことで、ベリクリーデはすっかり気が緩んでしまっているらしい。

良いか。ここは、まだキルディリア魔王国なんだからな。

ルーデュニア聖王国に帰るまでは、絶対に安心出来ない。

「時間が惜しい。見つかる前に、すぐにずらかるぞ」

「…ずからる?って何?」

「ずらかる、だ。我が姫。逃げ出すという意味だな」

クロティルダ。解説どうも。

「ほぇー」

「ほぇーじゃねぇから。ほら、クロティルダも。すぐに逃げるぞ」

ベリクリーデのみならず、クロティルダも急かすと。

「いや、残念ながら、それは無理な相談のようだ」

クロティルダは、険しい顔をして部屋の入り口を見つめていた。

は?

釣られて、振り返ろうとした刹那。

「…っ!?」

目の前に、ぎゅんっ、と鋭いピアノ線のようなものが迫ってきていた。

思わず、立ち尽くしそうになったところを。

クロティルダが、片手でそのピアノ線を弾き飛ばした。

たかがピアノ線…のはずなのに。

クロティルダが弾くと、ガキンッ、と金属がぶつかったような音がした。

…なんだ、このピアノ線は。

真っ直ぐに、俺の喉元を狙っていた。

クロティルダが咄嗟に助けに入ってくれなかったら、今頃喉仏を砕かれて、串刺しにされていたところだった。

そう思うと、全身に、どっと冷や汗が伝った。