神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

店主のおばちゃんだけではない。

ついさっきまで、楽しく談笑していたはずの、お客さん達までも。

俺とルイーシュを見て、さっと顔色が曇り。

慌てて、急いでお皿の中身を空にしようと、ガツガツと掻き込み始めた。

まるで、見てはいけないものでも見てしまったように。

…何?この対応。

すると、おばちゃん店主は、急いでエプロンで手を拭き。

愛想笑いを浮かべて、こちらに駆け寄ってきた。

「よ、ようこそいらっしゃいました。ま…魔導師様…」

「…」

声が上ずっているし、視線はぐるぐると彷徨っている。

いかにも、バツが悪いという風に。

おばちゃんの目を見て、俺は思い出した。

キルディリア魔王国で見た、『青カード』の人達の目を。

魔導師に媚び諂い、必死に機嫌を伺い。

何とか穏便にやり過ごそうという、虐げられた者の目だ。

そしてこの場合、虐げているのは俺達なのだ。

「あ、あの、今日は何の御用でしょうか」

あろうことか、そんなことを聞かれる始末。

…定食屋に来てるんだから、定食を食べる為に決まってんだろ。

しかし、おばちゃんは何を勘違いしたか。

「す、すみません。その、うちの店も、魔導師じゃないお客は一応、お断りさせていただいてるんですよ。でも…あのお客さん達は、長い間ずっと、うちを利用してくれていた常連さんで…」

「…」

「その…つい断れなくて。き、規則違反だってことは分かってるんですが。でも、その…」

たどたどしく、必死に言い訳を繰り返す。

その台詞で、察してしまった。

あぁ、成程。そういうこと。

俺とルイーシュが、摘発しに来たと思ってるんだな。

「魔導師じゃない客を店に入れてるじゃないか。どういうことだ!」って、叱りつけに来たのだと。

…違うんだけどな。

「…別に、告げ口しに来た訳じゃねぇよ」

「えっ?」

「客として来たんだ。…座っても良い?」

「えっ、あっ…。ど、どうぞ」

きょとんとしながらも、おばちゃんは椅子を勧めてくれた。

店内の内装は実にシンプルで、長テーブルにパイプ椅子という。

飾らない主義の、昔ながらの定食屋という出で立ち。

メニューも画用紙に手書きで、これまた良い味を出している。

テーブルの上には、醤油、七味唐辛子、胡椒などの調味料が、雑多に置いてある。

うーん…。この雑然とした感じ。たまんねぇよな?

…まぁ、店主にめっちゃ警戒されてるんだが。

「あのう…これ…」

「あ、どーも」

おずおずと、店主のおばちゃんが、お冷やのグラスを持ってきた。

「すみません…。その、魔導師じゃないお客様が…」

「良いんだよ。自分、そんなこと気にしないから」

「えっ?」

えっ、じゃないんだよ。そんなびっくりしないで。

「あんたさん達も、ゆっくり食べてくれ。魔導師か、魔導師じゃないかなんてどうでも良いんだ。同じ人間なんだから…同じ店の中で、同じ定食を食べたって、何も悪いことなんかないだろ…」

「…」

俺は、当たり前のことを言っただけなのに。

俺達を見て、バツが悪そうに定食を掻き込んでいたお客さん達も。

それに、店主のおばちゃんも、目を見開いてキョドっている有り様。

…既に、キルディリア的な思考が。

つまり、魔導師と非魔導師を徹底的に差別する考えが、アーリヤット領に広まりつつある、ということだ。