神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

「あのな、人様の山に生えてるタケノコは、その人様のものだから。勝手に採って帰っちゃ駄目なんだ。ルーデュニア聖王国ではそうなんだよ」

「ふーん…?なんか難しい決まりがあるんだね」

「迂闊に山にも入れないなんて…。世知辛い国だ」

うん。

まず、迂闊に山に入ろうという前提がおかしいからな?

しかし、すぐりは不満げだった。

「俺達が採ってなかったら、どうせイノシシに食べられてたよ」

「いや…。それは分からないだろ。ちゃんと持ち主が、」

「無理無理。間に合わないね。だって、俺達が山に入った時には、もう既にイノシシ、いたよ?」

は?

俺とシルナは、目が点になっていた。

それなのに、令月とすぐりはけろっとして。

「ねー、『八千代』?」

「そうだね。僕達がタケノコ掘ってたら、獣臭い匂いがして…」

「振り返ったら、鼻息を荒くしたイノシシがいたんだよねー」

…なぁ、それ、相当ヤバい状況だよな?

人様の山に勝手に入って、勝手にタケノコを掘ってたら、イノシシと遭遇。

これが一般人であれば、気の毒だが、でも自業自得である。

イノシシ君としては、知らない二人が勝手に、自分の餌(タケノコ)を掘り返していて。

「おいお前ら何やってんだ」的な状態だったのだろう。

俺やシルナだったら、一瞬で青ざめて、泣いて逃げ出すところだろうが。

…しかし、イノシシ君。

今回ばかりは、相手が悪かった。

「…で、そのイノシシはどうなった?」

「え?糸魔法でぐるぐる巻きにして、宙吊りにしたけど?」

「そこを麻酔針を打って眠らせて、山奥に放置してきた」

…そんなことだろうと思った。

…イノシシ、ドンマイ。

それどころか。

「なかなか立派な体格のイノシシだったし、捕まえて食べても良かったんだけどねー」

「今日の目的はタケノコであって、イノシシではなかったからね」

危うく、美味しい猪肉となって食べられるところだった。

「凶暴なイノシシを撃退してあげたんだからさー。その見返りにタケノコをもらうくらい、良いよね」

と、勝手に納得しているすぐりであった。

…山の持ち主さん、本当にすみません。

イノシシを退治したみたいなんで。許してください。

「で、無事にタケノコも収穫したし、早速、帰ってアク抜きしようと思ったんだけど…」

「学院長せんせーと、羽久せんせーを見つけたからさー。声かけに来た」

…とのこと。

成程、そういうことだったか…。

「何処行ってんの?」

「聖魔騎士団だよ…。…シルナがチョコケーキを差し入れするって言うから」

「あー、成程ねー」

すぐりは、シルナが持っている特大ケーキボックスを見つめながら頷いた。

「じゃ、ついでにタケノコも差し入れしようか」

「そーだね」

「そういう訳だから、僕達も一緒についていくよ」

「あ、そう…」

別に良いけど…。

こうして、令月とすぐりも、一緒に聖魔騎士団魔導隊舎に向かうことになった。

…しかし、チョコケーキとタケノコって…凄い組み合わせだな。

多分一緒に食べても合わないと思うので、別々に食べてくれ。