神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

多分…いや、絶対に。

イシュメル女王の目的は、ナツキ様に口を割らせることではない。

いや、その目的も、少しはあるんだろうけど。

本当は、そうじゃなくて。

俺とルイーシュをナツキ様に会わせて、俺達がどんな反応をするか試している。

つまり、イシュメル女王はまだ、俺達を疑ってるんだ。

…成程。そういうこと。

そっちがその気なら、こっちも遠慮はしませんわ。

「あなた方から、ナツキ様に話をしてくれませんか」

「…それ、俺達に拒否権ないよな?」

「そうですね。…女王陛下からのご命令ですから」

あぁ、はいはい。

分かりました。女王様の仰せのままに、ってね。

「10分経ったら戻ってきます。聞き出せることは何でも、聞き出してください」

シディ・サクメはそう言って。

俺とルイーシュをその場において、地下室から出ていった。

畜生…。勝手なことを。

…でも、腹を立てている時間の余裕はない。

10分経ったらサクメが戻ってくるんだから、その前にナツキ様と、少しでも会話をしておかなくては。

「…久し振りだな。アーリヤット皇国の皇王様ともあろう方が、随分情けない姿じゃないか」

「…」

俺は、扉越しにナツキ様に声をかけた。

正しくは、「元」皇王様だけどな。

本当は、ちゃんと挨拶をして、敬語で丁寧に話さなきゃいけない相手なんだろうが。

今はそんな余裕もないから。慇懃無礼に行かせてもらうぞ。

「聞こえてんだろ?返事をしろよ」

地下室に閉じ込められて、口の利き方さえ忘れたか。

それとも、俺達相手にも黙秘を続けるつもりか?

喋る気がないんなら、帰るぞ。

すると。

「…フユリの差し金か?」

地下室の中のナツキ様が、ようやく口を開いた。

「は?」

「貴様ら…。ルーデュニア聖王国の、聖魔騎士団の魔導師だろう」

ほう。

俺とルイーシュのこと、知ってたのか。

そりゃどうも。光栄なことで。

「何故ここにいる?…フユリがお前達を、ここに差し向けたのか」

「あー…。それは…」

まぁ、そう思うのも無理ないかも知れないが。

実は違うんだよなぁ。これが。

「残念だったな。それは違う」

「…?」

「フユリ様の差し金じゃない。自分達の意思だ。聖魔騎士団のやり方に、ほとほと嫌気が差してな」

「キルディリア魔王国に亡命して、充実した魔導師ライフを送っているところです」

「…」

という、俺とルイーシュの説明に。

ナツキ様は、疑いの眼差しを向けていた。

…半信半疑、ってところか。

まぁ、信じたくないなら勝手にどうぞ、だけど。

「…貴様らがキルディリア側であろうと、ルーデュニア側であろうとどうでも良い」

と、ナツキ様は言った。

「アーリヤット皇国は?…あの国は、今どうなってる?」

「…聞かされてないのか?」

まだ聞かされてないなら、そのまま聞かない方が身の為だと思うぞ。

…でも、どうしても知りたいのなら、聞かせてやるよ。

「アーリヤット皇国なんて国は、もうないよ」

「…何?」

「キルディリア魔王国の領土の一部になった。…だから、アーリヤット皇国という国は、もう存在してない」

「…」

その時の、ナツキ様の顔。

…さすがに、ちょっと可哀想になった。