神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

地下は酷く静かで、物音一つ、衣擦れの音一つ聞こえなかった。

死んだような静けさの中、俺とルイーシュと、先頭を歩くシディ・サクメの足音。

これだけが、やけに大きく響いて聞こえた。

人の気配はまったくない。

「…ここです」

サクメは、突き当たりの部屋の前で立ち止まった。

磨りガラスの扉の向こうに、ベッドに腰掛ける人のシルエットが見えた。

この磨りガラスの扉にも、幻覚魔法が使われている。

本来は透明な扉なのに、幻覚魔法で磨りガラスのように加工して。

中が見えないように、モザイクをかけているような状態だ。

…こうまでして、隠しておきたい人物なのか?

一体誰だ?

この人物が、俺達に会わせたい人…?

サクメが、磨りガラスにそっと触れると。

幻覚魔法が解け、磨りガラスの扉が、透明の扉に戻った。

途端に、部屋の中の人物の顔が明らかになった。

「…!」

これには、さすがの俺も驚いた。

「…」

ルイーシュは無言だったが、ルイーシュも息を呑んでいるのが分かった。

部屋の扉の向こうに、俺達三人が現れたことに気づき。

ベッドに腰かけて、俯いていた人物が顔を上げた。

鋭いその視線を、俺は知っていた。

「あんた…。ナツキ…皇王…!」

神聖アーリヤット皇国の皇王にして。

ルーデュニア聖王国の女王、フユリ・スイレン様の実の兄。

ナツキ・スイレン、その人であった。

…なんで、この人がここに。