神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

最高の贅を尽くした邸宅で、最低な居心地の悪さを感じながら暮らすこと、はや3日。

外に出る気にもならず、俺は邸宅の中に引きこもっていた。

しかし、そこに、ブラマンジュちゃんや。

10人もいるメイド達が、次々と声をかけに来て。

「大丈夫ですか?外の空気でも吸いに行きませんか?」とか。

「気分が優れないのですか?食事が口に合いませんでしたか?」とか。

「何か食べたいものはありますか?ルーデュニア料理でも何でもお作りします」とか。

「マッサージでもしましょうか?お飲み物はいかがですか?」とか。

あれこれと、俺に世話を焼いてくれようとするの。

ひきこもり生活さえ、満足にさせてもらえないのかよ。

まぁ、ひきこもるにしては、この家は部屋が広過ぎるんだが。

ブラマンジュちゃんやメイド達に、順繰りに声をかけられる度に。

「いや、大丈夫だから。ほんと平気だから」と、半笑いで答えて誤魔化したが。

本当は、「もう良いから、ほっといてくれ!」と、叫びそうになること20回ほど。

で、最終的に。

今朝、目を覚ますと、ブラマンジュちゃんに、

「今日は気分転換に、王都ファニレスをご案内しますね」と、一方的に宣言され。

俺のキルディリアひきこもり生活は、僅か四日目にして幕を閉じた。

早過ぎるだろ。

正直、気は進まなかったが。

「大丈夫、ルイーシュ様も一緒ですから」と、何一つ大丈夫じゃないのに、大丈夫だと言われて宥められ。

仕方なく、俺は服を着替えて、四日ぶりに外に出た。

ルイーシュも、超ダルそうだったけど。

俺が行くと言うなら、仕方なくルイーシュもついてくることになった。

元気出せよ。自分だって嫌々、渋々なんだから。

挙げ句、わざわざファニレス王宮から、ガイドさんまで呼んでくる始末。

それが、シディ・サクメだった。

俺は、思わずその、サクメという男性をじっと見つめてしまった。

「…」

「…?私の顔に何か?」

「…いや…」

…この人知ってる。

イシュメル女王のこしぎんちゃ、いや、イシュメル女王の側近だ。

学院長と羽久が、キルディリア魔王国に囚われていた間も。

この人が、学院長と羽久の世話係のようなことをしてたんだって?

その後の、先日のイーニシュフェルト魔導学院攻防戦の際も、一悶着あった仲だが…。

…よくもまぁ、俺の前に平気で姿を現したもんだよ。

などと考えていると、そんな俺の胸中を察したのか。

「…確かに、あなたの思うことも分かりますが」

シディ・サクメは、まるで子供を宥めるかのような口調で言った。

「今のあなた方は、大事なキルディリア国民の一人です」

「…」

「お互いの過去は、詮索しないのがキルディリア魔導師の作法。これからはキルディリアの上級魔導師同士、互いに高め合う存在でありたいと思っています。…あなたはどうですか?」

…さてね。

…まぁ、なんだ。

そっちがそのつもりなら、ここで波風を立てるのも違うよな。

「…分かった。それで良いよ」

「ご理解いただけて光栄です」

あぁ、そうかい。





それで俺は、仕方ない、と割り切ったものの。

「…」

ルイーシュは無言で、じっとシディ・サクメを横目で見ていたことに、俺は気づいていた。

気づいていたが、ブラマンジュちゃんや、ルイーシュんところのエリトール君もいる手前。

問いただすことも出来ず、そのまま、成り行きに身を任せることしか出来なかった。